1. 概要
入江聖奈は、2000年10月9日に鳥取県米子市で生まれた、日本の元女子アマチュアボクシング選手である。彼女は、2020年東京オリンピックの女子フェザー級で金メダルを獲得し、日本人女子ボクシング選手として史上初のオリンピック金メダリストという歴史的快挙を成し遂げた。また、鳥取県出身の選手としても史上初の金メダリストである。
現役引退後は、ボクシング以外の分野での活躍を模索し、現在は東京農工大学大学院農学府でカエルに関する研究を行っている。そのユニークな趣味や学業への熱意も、彼女の魅力の一つとして広く知られている。この記事では、入江聖奈の生い立ちからボクシングキャリア、オリンピックでの栄光、そして引退後の活動に至るまで、その詳細を記述する。
2. 生い立ちと背景
入江聖奈は、幼少期からボクシングに触れ、学業と競技活動を両立しながら成長した。
2.1. 出生と幼少期
入江聖奈は、2000年10月9日、鳥取県米子市に生まれた。米子市立義方小学校の2年生の時、小山ゆうの漫画『がんばれ元気』に影響を受け、ボクシングに興味を持った。そして、米子市内唯一のボクシングジム「シュガーナックルボクシングジム」に入門し、伊田武志会長の指導のもと、ボクシングを始めた。
2.2. 学歴とボクシング初期のキャリア
米子市立後藤ヶ丘中学校では陸上部に所属し、800m走を専門としていた。1年時には全国中学校駅伝大会に出場するなど、陸上でも活躍した。ボクシングにおいては、中学1年時に全国アンダージュニアボクシング大会に出場し、2学年上の後の日本女子バンタム級王者である柳井妃奈実にTKO勝ちを収めている。
鳥取県立米子西高等学校へ進学してからは、ボクシングに専念するようになった。高校卒業後、2019年に日本体育大学体育学部へ進学し、競技と学業を両立する生活を送った。
3. アマチュアボクシングのキャリア
入江聖奈は、アマチュアボクシング選手として、高校時代から数々の実績を残し、国内外の主要大会で活躍した。
3.1. 高校時代
高校1年時には並木月海に敗れたものの、高校2年と3年時には全日本女子ジュニアボクシング選手権大会で連覇を達成した。国際大会においても、2017年にAIBA世界ユース選手権バンタム級で、2018年には同大会フェザー級で、それぞれ銅メダルを獲得し、国際舞台での実力を示した。
3.2. 大学時代とオリンピック出場前
日本体育大学へ進学した2019年には、2019年世界女子ボクシング選手権大会の日本代表に選出され、準々決勝まで進出した。しかし、この大会ではネスティー・ペテシオに敗れ、ベスト8で終わった。
同年12月8日、2020年東京オリンピックアジア・オセアニア予選の日本代表を決めるボックスオフでは、全日本女子ボクシング選手権大会のチャンピオンであり、後のWBO女子世界スーパーフライ級王者となる晝田瑞希を下し、見事代表の座を勝ち取った。
2020年3月に行われたオリンピック予選では、準々決勝で以前敗れたペテシオに4-1の判定で勝利し、2012年ロンドンオリンピックより採用された女子ボクシングにおいて、日本勢で初めてのオリンピック出場権を獲得した選手となった。その後、決勝まで進んだが、2018年世界選手権優勝のLin Yu-ting林郁婷英語に敗れ、準優勝で大会を終えた。
4. 2020年東京オリンピック
入江聖奈は、2020年東京オリンピックボクシング女子フェザー級で、歴史的な金メダルを獲得した。
4.1. 出場権獲得と準備
入江は、2020年3月のアジア・オセアニア予選でオリンピック出場権を獲得し、日本人女子ボクシング選手として初めてのオリンピック出場という快挙を成し遂げた。本戦に向けて、彼女は入念な準備と調整を行った。
4.2. オリンピックでの戦績
2021年に開催された東京オリンピックボクシング女子フェザー級に日本代表として出場した。7月24日、初戦でエルサルバドルのYamileth Solorzanoヤミレト・ソロルサノ英語に判定勝ちを収め、オリンピックのボクシング女子における日本人選手初の勝利を記録した。
続く準々決勝では、ルーマニアのMaria Nechitaマリアクラウディア・ネクタ英語を3-2の僅差の判定で破り、この勝利によって、日本人女子ボクシング選手史上初のオリンピックメダリストとなることが確定した。さらに準決勝では、イギリスのKarriss Artingstallカリス・アーティングストール英語にも3-2の判定で勝利し、決勝へと駒を進めた。
4.3. 金メダル獲得と歴史的意義
2021年8月3日、決勝でフィリピンのネスティー・ペテシオを5-0の判定で破り、金メダルを獲得した。この金メダルは、日本人女子アマチュアボクシング選手として史上初の快挙であり、また、彼女の出身地である鳥取県出身の選手としても、全種目を通じて史上初の金メダリストという歴史的意義を持つものとなった。この栄光は、日本女子ボクシング界に新たな扉を開き、大きな注目を集めた。
5. オリンピック後と引退
オリンピック金メダル獲得後も競技活動を続けた入江聖奈は、現役引退の決断を下し、新たな道へと進んだ。
5.1. その後の競技活動
2021年11月の全日本女子ボクシング選手権大会フェザー級では、3年ぶり2度目の優勝を果たした。2022年1月には、ウズベキスタンのタシケントで開催されたASBCアジアU22選手権の女子フェザー級で金メダルを獲得し、本大会の女子最優秀選手にも選ばれた。
同年11月、ヨルダンで開催されたアジアアマチュアボクシング選手権に女子フェザー級で出場した。オリンピック予選で敗れたLin Yu-ting林郁婷英語には雪辱を果たしたが、決勝でカザフスタンのKarina Ibragimovaカリーナ・イブラヒモワ英語に敗れ、銀メダルを獲得した。この大会では、入江と同郷かつ大学同期の木下鈴花が女子フライ級で日本人女子初の金メダルを獲得している。
2022年11月27日に行われた全日本選手権の決勝では、吉澤颯希を判定で下し、2連覇を達成した。この大会が現役最後の大会となり、有終の美を飾る形となった。
5.2. 引退の決断と計画
入江は、日本体育大学を卒業する2023年春を機に、現役のボクシング選手としての引退を決断した。彼女はかねてより、大学卒業後は競技を続けない意向を示しており、引退後の計画についても具体的に語っていた。
2022年9月には、東京農工大学大学院農学府の入学試験に合格したことを明らかにした。これにより、彼女は大学院に進学し、長年の夢であったカエルに関する研究者の道を目指すことを公言した。また、将来的にはビデオゲーム会社で働くという展望も語っている。
6. 人物・趣味
入江聖奈は、ボクシング選手としての顔の他に、個性的な趣味や学業への深い関心を持つ人物として知られている。
6.1. 趣味・嗜好
入江は、幼少期から「カエル好き」として知られ、カエルの飼育やカエルに関する品物の収集に情熱を注いでいる。休日にはカエルの観察に出かけることもある。実家では「ジャイ子」と名付けたツノガエルを飼育している。オリンピック金メダル獲得後、鳥取県から県民栄誉賞と県スポーツ最高栄冠賞を授与された際には、鳥取砂丘の砂で作られたカエルがデザインされた特製のメダルも贈呈された。
カエル以外の趣味としては、YouTubeの動画鑑賞やゲームといったインドア派の活動を好む。2020年東京オリンピックの選手村にもNintendo Switchを持ち込んでいた。また、海外遠征時には必ずカップ麺を持ち込み、特に日清焼そばUFOや一平ちゃんを好むという一面も持つ。彼女はTwitterアカウント(@seeenaaa09)やInstagramアカウント(@irie_sena)も活用している。
彼女の名前「聖奈」は、F1ドライバーのアイルトン・セナに由来する。また、死ぬまでに日本で一番高い場所でバンジージャンプを飛ぶことを希望している。
6.2. 学業と将来の展望
日本体育大学では心理学のゼミに所属し、「浮気の境界線」について研究を行った。大学院では、東京農工大学農学府に進学し、カエルに関する研究者となることを目指している。
彼女は、ボクシング競技は大学4年時の全日本選手権までで区切りをつけ、卒業後は競技を続けない意向を明確に示していた。ボクシング選手引退後は、カエル研究者としての道を追求するとともに、ビデオゲーム会社での就職も視野に入れている。
学友関係としては、米子市立後藤ヶ丘中学校時代からの同級生に飛込競技選手の三上紗也可がいる。また、日本体育大学ボクシング部の先輩には、ものまねタレントのMr.シャチホコがいる。2022年7月17日に行われた「関東大学女子トーナメント」では、本来のフェザー級より2階級上のライトウェルター級で出場し、体重の上限に届かない61 kgで出場したものの、日本体育大学の主将としてチームを総合優勝に導いた。
7. 栄誉と評価
入江聖奈は、その傑出した競技成績と人間性により、数々の栄誉と社会的な評価を受けている。
7.1. 受賞歴
入江聖奈が選手キャリア中に獲得した主な賞や栄誉は以下の通りである。
- プロ・アマチュア年間表彰**
- 2021年アマチュアボクシング部門 最優秀選手賞
- 2022年アマチュアボクシング部門 優秀選手賞
- 鳥取県県民栄誉賞**(2021年)
- 鳥取県スポーツ最高栄冠賞**(2021年)
- 米子市市民栄光賞**(2021年)
- 紫綬褒章**(2021年)
7.2. 功績と社会的評価
入江聖奈の2020年東京オリンピックでの金メダル獲得は、日本ボクシング界、特に女子ボクシングの発展に計り知れない影響を与えた。彼女は日本人女子ボクシング選手として初のオリンピック金メダリストとなり、多くの若手選手に夢と希望を与えた。
彼女の功績を称えるため、2022年3月29日には、2020年東京オリンピックの金メダリストの功績を称えるゴールドポストプロジェクトの一環として、鳥取県米子市の米子市役所前に記念のゴールドポスト(第79号)が設置された。競技面だけでなく、カエル研究への情熱やユニークな人柄も広く大衆に愛され、社会的に高い評価を得ている。
- [https://www.olympedia.org/athletes/144330 Olympediaでのプロフィール]
- [https://boxrec.com/en/boxer/900016 BoxRecでのデータ]