1. 概要

カティア・ブニアティシヴィリ(ხატია ბუნიატიშვილიハティア・ブニアティシュヴィリグルジア語、1987年6月21日生まれ)は、ジョージア出身のフランス人ピアニストです。彼女は3歳でピアノを始め、6歳でトビリシ室内管弦楽団と初のコンサートを行い、10歳で国際的な舞台に登場しました。彼女は革新的な演奏スタイルと深い音楽的解釈で知られており、その大胆なアプローチは批評家の間で賛否両論を巻き起こしてきました。
ブニアティシヴィリは、単なる演奏家としてだけでなく、社会・政治的な意識を持つアーティストとしても知られています。特に、ウラジーミル・プーチン大統領の政策を支持するワレリー・ゲルギエフとの共演を拒否するなど、人権や民主主義への強いコミットメントを示しています。彼女の芸術的表現と倫理的信念が一体となった活動は、「ピアノ界のビヨンセ」と称されるほどの注目を集め、そのパブリックイメージを形成しています。この記事では、彼女の生い立ち、キャリア、ディスコグラフィ、受賞歴、私生活、そして評価と論争について、多角的な視点から詳細に掘り下げます。
2. 生い立ちと教育
ブニアティシヴィリは、1987年にジョージアのトビリシで生まれました。幼少期から音楽的才能を発揮し、初期の教育は家庭と専門機関で綿密に行われました。
2.1. 幼少期と音楽教育
カティア・ブニアティシヴィリは3歳で母親の指導のもとピアノのレッスンを始めました。幼い頃は、母親が与えたモーツァルトの『レクイエム』を聴くことに熱中していました。6歳でトビリシ室内管弦楽団との初めてのコンサートを行い、10歳からはヨーロッパ、ウクライナ、アルメニア、イスラエル、アメリカ合衆国など国際的な舞台で演奏するようになりました。完璧な音程でヴァイオリンを演奏できたにもかかわらず、ピアノを選んだと伝えられています。彼女は姉のグヴァンツァ・ブニアティシヴィリもピアニストであり、幼少期から共にピアノを学び、連弾を楽しむことが多々ありました。
11歳から15歳の間、彼女はジョージアの学校を離れ、ハンガリー系フランス人ピアニストで教育者のミシェル・ソニーに師事するため、オーストリアのヴィラ・シンドラーで集中的な訓練を受けました。この期間、彼女はソニーの革新的なピアノ教授法を学びました。1999年には、12歳でミシェル・ソニーが主宰するSOSタレント財団で彼に師事しています。
トビリシ中央音楽学校を卒業後、2004年にトビリシ国立音楽院に入学しました。その後、トビリシで行われたピアノコンクールでオレグ・マイセンベルクに見出され、ウィーン国立音楽大学へ転籍し、マイセンベルクの下で学びを深めました。
3. 経歴
カティア・ブニアティシヴィリは、2010年にソニー・クラシカルと独占契約を結び、国際的なピアニストとしてのキャリアを本格化させました。彼女の演奏活動は、リサイタルやオーケストラとの協演、世界各地でのツアーに及び、そのユニークな芸術哲学とパブリックイメージは常に注目を集めています。
3.1. 初期キャリアと評価
2008年には、ニューヨークのカーネギー・ホールでデビューを果たしました。2010年には権威あるボレッティ・ブイトーニ財団賞を受賞し、BBCの新世代アーティストプログラムにも選ばれました。2011年から2012年のシーズンには、ウィーン楽友協会とウィーン・コンツェルトハウスにより「ライジングスター」にノミネートされ、2012年にはエコークラシック賞で最優秀新人賞(ピアノ部門)を受賞するなど、初期から高い評価を受けました。
彼女の2011年のデビューアルバム『フランツ・リスト』は、リスト生誕200周年を記念したもので、『ソナタ ロ短調』、『愛の夢第3番』、『ラ・カンパネッラ』、『ハンガリー狂詩曲第2番』、『メフィスト・ワルツ』が収録されました。このアルバムについて、クラシックFMは「ブニアティシヴィリは、若い頃のマルタ・アルゲリッチを彷彿とさせる激しい気性と技法を持つ若いアーティストである」と評し、その才能を高く評価しました。一方、グラモフォン誌の批評では、「彼女の特徴である落ち着かないリズム感、計算外の躍動感、全体的な無計画さも何度か聞いているうちに次第に薄れてくる」と述べ、アルバム全体としてはあまり印象を残さなかったと批判的な見解を示しました。
ブニアティシヴィリはヴェルビエ音楽祭の常連出演者でもあり、2011年のフェスティバルではリストの『ソナタ ロ短調』を演奏しました。
3.2. 主要な演奏活動

2012年には、セカンドアルバムとなる『ショパン』をリリースしました。このアルバムには独奏曲に加え、パリ管弦楽団およびパーヴォ・ヤルヴィ指揮によるピアノ協奏曲第2番ヘ短調が収録されています。この演奏について、ガーディアン紙は「これは今日の最もエキサイティングで技術的に才能のある若いピアニストが本心からストレートに弾いている」と絶賛しました。しかし、グラモフォン誌はピアノ協奏曲の録音について「休止の欠如と過度に速い演奏」と批判的な意見を述べています。
2014年には3枚目のアルバム『マザーランド』をリリースしました。これまでのアルバムとは異なり、特定の作曲家に焦点を当てるのではなく、母国ジョージアの音楽を含む、彼女にとって個人的に重要な意味を持つ曲で構成されており、母親に捧げられました。続いて2016年には、ムソルグスキーの『展覧会の絵』などを収録した4枚目のアルバム『カレイドスコープ』を発表しました。同年には、イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団とズービン・メータ指揮によるラヴェルとベートーヴェンのピアノ協奏曲のDVDとブルーレイもリリースしています。2017年には、チェコ・フィルハーモニー管弦楽団とパーヴォ・ヤルヴィ指揮による『ラフマニノフ』のピアノ協奏曲第2番と第3番を収録したアルバムを発表しました。
彼女は、パリ管弦楽団(パーヴォ・ヤルヴィ指揮)、ロサンゼルス交響楽団、ウィーン交響楽団、フランス国立管弦楽団(ダニエレ・ガッティ指揮)、ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団など、世界有数のオーケストラと共演してきました。また、ギドン・クレーメルやルノー・カピュソンといった著名なヴァイオリニストとも共演しています。
彼女は、ヨーロッパを中心に開催されるフィギュアスケートのイベントでもパフォーマンスを行っています。2014年のアート・オン・アイスツアーや2016年のアイスレジェンズでは、スケーターの演技に合わせてピアノ演奏を披露しました。
日本には2010年に初来日し、「ラ・フォル・ジュルネ」でショパンの楽曲を演奏し、注目を集めました。2012年10月から11月にかけては、ギドン・クレーメル率いるクレメラータ・バルティカと共演のために来日しました。2016年2月の来日では、NHK交響楽団と共演しています。さらに、2017年11月にも来日し、名古屋、東京、大阪、札幌でリサイタルを開催したほか、新日本フィルハーモニー交響楽団や広島交響楽団とも共演しました。
2024年12月7日には、再建されたノートルダム大聖堂の再開記念コンサートに出演した主要アーティストの一人として演奏しました。
3.3. 芸術哲学とパブリックイメージ
ブニアティシヴィリは、ピアノを「音楽の孤独の象徴」と表現しており、楽曲の解釈を非常に深く追求し、極めて技巧的な演奏を行います。その解釈に基づいた演奏は、批評家からの評価を二分する要因となることもありますが、協奏曲の演奏における指揮者とのインタビューでも示されているように、オーケストラとの一体感は非常に高いことで知られています。
また、彼女は自身の容姿、演奏スタイル、音楽への取り組み方を全面に押し出した様々なモデル活動、トーク番組、ドキュメンタリー番組にも積極的に参加しており、「ピアノ界のビヨンセ」と呼ばれることもあります。2017年のフランスF2のドキュメンタリー番組『ストゥペフィアン!』は、「ブニアティシヴィリは自身の演奏のポリシーと魅力を世界中に余すところなく披露しているが、プーチンのいるロシアではそれを拒んでいる」と報じました。
2017年7月に開催されたパリ祭についても、ワレリー・ゲルギエフが指揮を担当することになったため出演を断ったと伝えられています。インタビューによると、ゲルギエフがプーチン政権を後押ししていることがその理由であると彼女は述べており、自身の芸術活動においても政治的・社会的な立場を明確に表明する姿勢を見せています。
4. ディスコグラフィ
カティア・ブニアティシヴィリは、主にソニー・クラシカルからアルバムをリリースしており、その多くはソロピアノ作品または著名なオーケストラや指揮者との協演です。
- 2011年 - 『フランツ・リスト』 - ピアノソロアルバム。リストの『ソナタ ロ短調』、『愛の夢第3番』、『メフィスト・ワルツ第1番』、『ラ・カンパネッラ』、『ハンガリー狂詩曲第2番』などを収録。
- 2012年 - 『ショパン』 - パリ管弦楽団、パーヴォ・ヤルヴィ指揮。ソロピアノ作品に加え、ショパンのピアノ協奏曲第2番ヘ短調を収録。
- 2014年 - 『マザーランド』 - ピアノソロアルバム。彼女の母国ジョージアの音楽を含む、個人的に重要な曲で構成され、母親に捧げられた。
- 2016年 - 『カレイドスコープ』 - ピアノソロアルバム。ムソルグスキーの『展覧会の絵』他を収録。
- 2016年 - 『リスト・ベートーヴェン』 - イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団とズービン・メータ指揮。ラヴェルとベートーヴェンのピアノ協奏曲のDVDとブルーレイもリリース。
- 2017年 - 『ラフマニノフ』 - チェコ・フィルハーモニー管弦楽団、パーヴォ・ヤルヴィ指揮。ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番と第3番を収録。
- 2019年 - 『シューベルト』 - ピアノソロアルバム。
- 2020年 - 『ラビリンス』 - ピアノソロアルバム。
- 2024年 - 『モーツァルト ピアノ協奏曲第20番&第23番』 - アカデミー室内管弦楽団と協演。
5. 受賞歴
カティア・ブニアティシヴィリは、その傑出した才能と演奏で数々の賞と栄誉を受けています。
- 2003年 - ホロウィッツピアノコンクール特別賞 - エリザベス・レオンスカヤスカラシップ第1位。
- 2005年 - 第3回トビリシ・インターナショナル・ピアノコンクール - 「芸術のための特別賞」、「ジョージア・ベスト・ピアニスト」賞、第2位。
- 2008年 - 第12回アルトゥール・ルービンシュタイン国際ピアノマスターコンクール第3位 - 特別賞「ショパン最優秀奏者」と「聴衆者賞」。
- 2010年 - ボレッティ・ブイトーニ財団賞。
- 2012年 - エコークラシック賞新人賞(ピアノ部門)。
- 2016年 - エコークラシック賞ソロレコーディング(19世紀ピアノ部門)。
6. 私生活
カティア・ブニアティシヴィリは、公にされている情報によると、私生活については比較的控えめです。彼女は母国語であるグルジア語の他、フランス語、英語、ドイツ語、ロシア語などを話すことができる多言語話者です。姉のグヴァンツァ・ブニアティシヴィリもピアニストであり、二人はしばしば共演しています。私生活の詳細については、上記以外には広く知られていません。
7. 評価と論争
カティア・ブニアティシヴィリの演奏は、評論家や聴衆から幅広い評価を受けており、その革新的なスタイルはしばしば論争の的となってきました。
肯定的な評価としては、ガーディアン紙が彼女の『ショパン』アルバムについて「今日の最もエキサイティングで技術的に才能のある若いピアニストが本心からストレートに弾いている」と絶賛したように、その情熱的で心に響く演奏と、卓越した技術力が挙げられます。彼女の演奏は「ピアノ界のビヨンセ」と称されるほど、視覚的な魅力とパフォーマンス性も高く評価されています。
一方で、批判的な評価も存在します。例えば、グラモフォン誌は、彼女の『フランツ・リスト』アルバムについて「落ちつかないリズム感、計算外の躍動感、全体的な無計画さ」を指摘し、さらに『ショパン』のピアノ協奏曲録音については「休止の欠如と過度に速い演奏」と批判しました。このように、彼女の自由奔放で大胆な解釈は、伝統的な演奏を好む層からは逸脱していると見なされることがあります。
特に注目されるのは、彼女の社会・政治的な発言と行動に関連する論争です。ワレリー・ゲルギエフがウラジーミル・プーチン政権を支持していることを理由に、彼が指揮するコンサートへの出演を拒否したことは、大きな話題となりました。彼女は、芸術家が政治的立場を表明することの重要性を強調し、人権や民主主義へのコミットメントを示しています。このような毅然とした態度は、一部からは賞賛される一方で、芸術と政治の分離を求める意見や、政治的発言が演奏活動に影響を与えることへの懸念など、様々な議論を巻き起こしています。彼女の演奏スタイルと同様に、その社会的な姿勢もまた、彼女というアーティストを多角的に捉える上で不可欠な要素となっています。
8. 外部リンク
- [http://www.khatiabuniatishvili.com/ 公式サイト]
- [https://www.sonyclassical.de/kuenstler/artists-details/khatia-buniatishvili ソニー・クラシカルのアーティストページ]
- [http://www.mplant.co.jp/Profile-khatia.html 株式会社ミュージックプラント]
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