1. 概要
山下杏也加選手は、東京都足立区出身の日本の女子サッカー選手であり、主にゴールキーパーとして活躍しています。現在はイングランドの強豪クラブであるマンチェスター・シティWFCに所属し、日本女子代表(なでしこジャパン)の一員としても不可欠な存在です。彼女は類稀な反射神経と判断力でゴールを守り、チームの勝利に貢献してきました。
小学校2年生でサッカーを始め、当初はフォワードとしてプレーしていましたが、高校時代にその長身を見込まれてゴールキーパーに転向。この転向が彼女のキャリアにおける大きな転機となりました。国内のクラブでは日テレ・ベレーザで長年にわたり活躍し、数々のリーグ優勝やカップ戦タイトル獲得に貢献。特にINAC神戸レオネッサでは、2021-22シーズンにWEリーグの初代最優秀選手賞(MVP)を受賞し、ゴールキーパーとして初の快挙を成し遂げました。これは、彼女の卓越した技術とチームへの貢献が評価された象徴的な出来事です。
日本代表としては、2015年にデビューして以来、FIFA女子ワールドカップやオリンピックといった主要な国際大会に複数回出場し、その堅実な守備でチームを支えてきました。2023年のFIFA女子ワールドカップでは、グループステージで唯一無失点を記録したゴールキーパーとして、チームの快進撃に貢献し、その存在感を世界に示しました。2024年には活躍の場をヨーロッパに移し、マンチェスター・シティWFCの一員として新たな挑戦を始めています。
本記事では、山下杏也加選手の幼少期から現在に至るまでのキャリアを詳細に記述し、彼女が女子サッカー界に残した功績と、今後の活躍への期待を多角的に掘り下げます。
2. 生涯と初期のキャリア
山下杏也加選手は1995年9月29日に東京都足立区で生まれ、幼少期からサッカーに親しんできました。身長170 cm、体重67 kg。彼女の成長過程とサッカーキャリアの始まりは、その後の輝かしい道のりの基盤を築きました。
2.1. ユース・ジュニア時代
山下選手は小学校2年生の時に、兄の影響を受けてサッカーを始めました。当初はフォワードとしてKSC加平サッカースポーツ少年団に入団し、その後東加平キッカーズに所属しました。
中学時代は足立レディースフットボールクラブでプレーし、2010年には東京都女子中学リーグ3部で優勝を飾り、2部昇格に貢献しました。
2011年に村田女子高等学校(現・広尾学園小石川高等学校)に進学。高校1年生の秋、その長身が注目され、ゴールキーパーへの転向を勧められました。このポジション変更が、彼女のサッカー人生において決定的な転機となります。高校2年生の時には、将来性のある選手を発掘・育成する「スーパー少女プロジェクト」の一員として、J-GREEN堺で行われたトレーニングキャンプに参加しました。
高校3年時の2013年7月には、日テレ・ベレーザに特別指定選手として登録され、トップチームでの経験を積む機会を得ました。
3. クラブキャリア
山下杏也加選手は、日本の主要クラブである日テレ・ベレーザとINAC神戸レオネッサで輝かしい実績を積み、その後イングランドのマンチェスター・シティWFCへと活躍の場を広げました。各クラブでの彼女のキャリアは、チームの成功に不可欠なものでした。
3.1. 日テレ・ベレーザ
2014年、山下選手は日テレ・ベレーザに正式に加入しました。同年3月29日のなでしこリーグ開幕戦(対ASエルフェン埼玉戦)でリーグデビューを果たします。彼女は日テレ・ベレーザで長期間にわたり、安定したパフォーマンスを見せ、チームの黄金期を支えました。
在籍中、クラブはなでしこリーグで2015年から2019年まで5連覇を達成。また、皇后杯でも2014年、2017年、2018年、2019年、2020年と5度の優勝、なでしこリーグカップでは2016年、2018年、2019年と3度の優勝を果たしました。さらに、2019年にはAFC女子クラブ選手権でも優勝を経験しました。
山下選手自身も、2015年から2019年まで5年連続でなでしこリーグのベストイレブンに選出され、リーグを代表するゴールキーパーとしての地位を確立しました。2019年4月からはプロ契約を結び、2020年にはクラブの副キャプテンにも就任し、チーム内でのリーダーシップを発揮しました。
3.2. INAC神戸レオネッサ
2021年1月15日、山下選手はINAC神戸レオネッサへ完全移籍しました。この移籍は、彼女にとって新たな挑戦の始まりとなりました。同年9月12日のWEリーグ開幕戦(対大宮アルディージャVENTUS戦)でWEリーグでの初出場を果たします。
INAC神戸レオネッサでは、2021-22シーズンにクラブをWEリーグの初代王者へと導く原動力となりました。このシーズン、彼女はWEリーグ初代MVPに輝き、日本の女子サッカーリーグ史上初めてゴールキーパーとしてMVPを受賞するという歴史的な快挙を成し遂げました。この受賞は、彼女の卓越したセービング技術とチームへの多大な貢献が認められた証です。
また、WEリーグでは2021-22シーズンから3シーズン連続でベストイレブンに選出され、さらに3年連続で優秀選手賞も受賞するなど、リーグを代表する選手として輝きを放ちました。2023年には皇后杯でも優勝を経験しました。
2024年6月7日、海外移籍の準備のため、2023-24シーズン限りでINAC神戸レオネッサを退団することを発表し、新たな挑戦への意欲を示しました。
3.3. マンチェスター・シティWFC
2024年8月9日、山下杏也加選手はイングランドのウィメンズ・スーパーリーグに所属する強豪クラブ、マンチェスター・シティWFCへの加入が正式に発表されました。契約期間は2027年6月30日までの3年間です。背番号は31を着用します。
マンチェスター・シティでのデビューは、同年9月18日のUEFA女子チャンピオンズリーグ予選、パリFC戦でした。この移籍は、彼女のキャリアにおいて初の海外挑戦となり、世界のトップレベルでの活躍が期待されています。
4. 代表キャリア
山下杏也加選手は、日本女子サッカーの次世代を担う存在として、年齢別代表チームから成人代表チームに至るまで、国際舞台で重要な役割を果たしてきました。
4.1. 年齢別代表チーム
山下選手は、高校3年時の2013年にU-19日本女子代表メンバーに選出されました。彼女は「AFC U-19女子選手権 中国2013」に出場し、またアメリカ合衆国や中華人民共和国への遠征にも参加するなど、若い頃から国際試合の経験を積みました。これらの経験が、その後の彼女の成長に大きく寄与しました。
4.2. 成人代表チーム
山下選手は2015年7月21日、EAFF女子東アジアカップ2015に臨むなでしこジャパンに初選出されました。同年8月4日の韓国戦で代表デビューを果たし、その国際キャリアをスタートさせました。
2016年にはリオデジャネイロオリンピックのサッカー女子アジア最終予選の日本代表メンバーに選ばれましたが、チームは惜しくも予選敗退となり、本大会出場は叶いませんでした。
2019年6月、フランスで開催された2019 FIFA女子ワールドカップでは、グループリーグ3試合と決勝トーナメント1回戦の計4試合すべてで先発フル出場し、なでしこジャパンのゴールを守りました。
2023年6月13日には、オーストラリアとニュージーランドが共催する2023 FIFA女子ワールドカップのなでしこジャパンメンバーに選出されました。この大会では、グループリーグ3試合で唯一無失点を記録したゴールキーパーとして、チームの決勝トーナメント進出に大きく貢献しました。特に、8月5日のノルウェー戦では、試合終盤に至近距離からのヘディングシュートをスーパーセーブで防ぎ、チームの準々決勝進出の立役者となりました。
2024年6月14日には、2024年パリオリンピックに出場するなでしこジャパンのメンバーに選出され、再び世界の舞台での活躍が期待されています。
4.2.1. 主要国際大会出場
山下杏也加選手が国家代表として出場した主要な国際大会は以下の通りです。
- EAFF女子東アジアカップ2015
- 2018 AFC女子アジアカップ - 優勝
- 2018年アジア競技大会 - 優勝
- 2019 FIFA女子ワールドカップ
- EAFF E-1サッカー選手権2019 - 優勝
- 2020年東京オリンピック
- 2022 AFC女子アジアカップ
- EAFF E-1サッカー選手権2022 - 優勝
- 2023 FIFA女子ワールドカップ
- 2024年パリオリンピック
- 2025 シービリーブスカップ - 優勝
5. 獲得タイトルと個人賞
山下杏也加選手は、その輝かしいキャリアを通じて、多くのチームタイトルと個人賞を獲得してきました。
5.1. クラブタイトル
- 日テレ・ベレーザ
- なでしこリーグ: 5回 (2015, 2016, 2017, 2018, 2019)
- 皇后杯: 5回 (2014, 2017, 2018, 2019, 2020)
- なでしこリーグカップ: 3回 (2016, 2018, 2019)
- AFC女子クラブ選手権: 1回 (2019)
- INAC神戸レオネッサ
- WEリーグ: 1回 (2021-22)
- 皇后杯: 1回 (2023)
5.2. 代表チームタイトル
- 日本女子代表(なでしこジャパン)
- AFC女子アジアカップ: 1回 (2018)
- アジア競技大会: 1回 (2018)
- EAFF E-1サッカー選手権: 2回 (2019, 2022)
- シービリーブスカップ: 1回 (2025)
5.3. 個人タイトル
- なでしこリーグ
- ベストイレブン: 5回 (2015, 2016, 2017, 2018, 2019)
- WEリーグ
- 最優秀選手賞 (MVP): 1回 (2021-22)
- ベストイレブン: 3回 (2021-22, 2022-23, 2023-24)
- 優秀選手賞: 3回 (2021-22, 2022-23, 2023-24)
- EAFF E-1サッカー選手権
- ベストGK: 2回 (2019, 2022)
- JPFA女子
- ベストイレブン: 1回 (2023-24)
6. キャリア統計
山下杏也加選手のクラブおよび国家代表チームにおける出場記録と関連統計を以下に示します。
6.1. クラブ統計
クラブ | シーズン | リーグ | 国内カップ | リーグカップ | 大陸別 | 合計 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
ディビジョン | 出場 | 失点 | 出場 | 失点 | 出場 | 失点 | 出場 | 失点 | 出場 | 失点 | ||
日テレ・ベレーザ | 2014 | なでしこリーグ | 4 | 0 | 4 | 0 | - | - | 8 | 0 | ||
2015 | なでしこリーグ | 22 | 0 | 3 | 0 | - | - | 25 | 0 | |||
2016 | なでしこリーグ | 18 | 0 | 4 | 0 | 7 | 0 | - | 29 | 0 | ||
2017 | なでしこリーグ | 18 | 0 | 5 | 0 | 6 | 0 | - | 29 | 0 | ||
2018 | なでしこリーグ | 17 | 0 | 5 | 0 | 4 | 0 | - | 26 | 0 | ||
2019 | なでしこリーグ | 18 | 0 | 2 | 0 | 3 | 0 | 3 | 0 | 26 | 0 | |
2020 | なでしこリーグ | 12 | 0 | 0 | 0 | - | - | 12 | 0 | |||
合計 | 109 | 0 | 23 | 0 | 20 | 0 | 3 | 0 | 155 | 0 | ||
INAC神戸レオネッサ | 2021-22 | WEリーグ | 19 | 0 | 1 | 0 | - | - | 20 | 0 | ||
2022-23 | WEリーグ | 19 | 0 | 4 | 0 | 4 | 0 | - | 27 | 0 | ||
2023-24 | WEリーグ | 18 | 0 | 3 | 0 | 1 | 0 | - | 22 | 0 | ||
合計 | 56 | 0 | 8 | 0 | 5 | 0 | - | 69 | 0 | |||
マンチェスター・シティ | 2024-25 | WSL | 8 | 0 | 2 | 0 | 2 | 0 | 4 | 0 | 16 | 0 |
キャリア通算 | 173 | 0 | 33 | 0 | 27 | 0 | 7 | 0 | 240 | 0 |
6.2. 代表チーム統計
代表チーム | 年 | 出場 | 失点 |
---|---|---|---|
日本 | 2015 | 3 | 3 |
2016 | 3 | 7 | |
2017 | 5 | 7 | |
2018 | 14 | 12 | |
2019 | 10 | 9 | |
2020 | 2 | 6 | |
2021 | 6 | 4 | |
2022 | 10 | 9 | |
2023 | 11 | 6 | |
2024 | 11 | 10 | |
2025 | 2 | 1 | |
通算 | 77 | 74 |