1. 生涯
エミリオ・サルガーリは、悲劇的な人生を送りながらも、多くの読者を魅了する物語を生み出し続けました。
1.1. 幼少期と教育
エミリオ・サルガーリは、1862年8月21日にヴェローナの質素な商人家庭に生まれました。幼い頃から海への強い探求心と情熱を抱き、ヴェネツィアの航海技術専門学校で航海術を学びました。しかし、彼の学業成績は振るわず、ついに卒業することはありませんでした。
1.2. 初期活動と作家としての出発
航海士になる夢が叶わなかったサルガーリは、探検と発見への情熱を執筆活動へと転じました。彼は日刊紙『ラ・ヌオーヴァ・アレーナ』の記者として執筆キャリアをスタートさせ、その作品の一部が連載されました。彼の物語の力が成長するにつれて、冒険に満ちた人生を送ったという評判も高まっていきました。サルガーリは、スーダンの砂漠を探検し、バッファロー・ビルとネブラスカで出会い(実際にはバッファロー・ビルの「ワイルド・ウェスト・ショー」がイタリアを巡業した際に彼と会っています)、七つの海を航海したと主張しました。彼の初期の伝記は、彼の作品の多くが基づいていると彼が主張した極東を舞台とした冒険談で満たされていました。しかし、実際にはサルガーリがアドリア海より遠くへ旅したことは一度もありませんでした。
彼はキャリアの初期から、自身の物語に「サルガーリ船長」という筆名を用いるようになりました。この称号が疑問視された際には、決闘をしてまでこれを守り抜いたという逸話も残されています。
1.3. 私生活と悲劇
サルガーリはイダ・ペルッツィと結婚し、彼女を「アイーダ」と呼び、数年間は幸福な結婚生活を送りました。二人の間には4人の子供が生まれました。しかし、サルガーリの私生活はいくつかの悲劇によって暗い影を落とします。1889年には、彼の父親が自殺しました。1903年以降、妻のイダが病に倒れ、その治療費がサルガーリの経済的苦境を一層深めました。
これらの出来事がサルガーリを鬱病に陥らせ、1910年には自殺未遂を起こします。1911年にイダが精神病院に入院すると、サルガーリは絶望に打ちひしがれ、同年4月25日に日本の切腹を模倣した方法で自ら命を絶ちました。彼は遺書として、自身の子供たち、出版社、そしてトリノの新聞社宛てに3通の手紙を残しています。出版社宛ての手紙には、次のように書かれていました。
「私の苦労の汗で富を築きながら、私と私の家族を貧困に置き去りにしたあなた方へ。その利益の中から私の葬儀費用を捻出してくださるようお願いするばかりです。ペンを折りながら、あなた方に別れを告げます。エミリオ・サルガーリ。」
エミリオとアイーダの息子の一人も、1933年に自殺しています。

1.4. 死去
鬱病による自殺未遂とその後の死に至る経緯は、彼の人生の悲劇的な結末を示しています。彼は1910年に一度自殺を試み、その翌年、妻イダが精神病院に入院したことをきっかけに、追い詰められて自死を選びました。この死は、彼が自身の作品で描いた冒険とは対照的な、現実の苦しみを反映していました。遺書の内容は、彼が生涯を通じて出版社の搾取に苦しんできたことを鮮明に物語っており、彼の死後もその悲劇的な状況は語り継がれています。
2. 文学活動
エミリオ・サルガーリは、その生涯で200編以上の冒険物語や小説を執筆し、広範な作品世界を築き上げました。
2.1. 作品世界とスタイル
サルガーリの物語は、多岐にわたる異国情緒あふれる舞台設定と、多様な文化圏出身の英雄たちが特徴です。彼は外国文学や新聞、旅行雑誌、百科事典からインスピレーションを得て、英雄たちの世界を描き出しました。彼の物語に登場する英雄たちは、主に海賊、無法者、野蛮人であり、彼らは強欲、権力濫用、腐敗といった不正義と戦う姿が描かれています。このテーマは、中道左派の視点から見ても、社会的弱者の解放や不正義への抵抗という側面で肯定的に評価できるものです。
サルガーリの文体は、読者を飽きさせないスピーディーな展開、壮大な戦闘シーン、そしてユーモアが随所に散りばめられているのが特徴です。このようなスタイルは、多くの追随者を生み出しましたが、彼の持つ人気と成功を再現できたイタリアの冒険作家は他に現れませんでした。
2.2. 主要シリーズ
サルガーリの代表作には、以下の4つの主要な連作シリーズがあります。
- マレーシアの海賊シリーズ(サンドカンシリーズ)**: 最も有名な英雄であるサンドカン(「マレーシアの虎」として知られるボルネオの王子から海賊になった人物)と、その忠実な副官ヤネス・オブ・ゴメラが活躍します。彼らはオランダ海軍やイギリス海軍と戦い、サラワクの白人ラジャであるジェームズ・ブルックをその王座から追い出そうとしました。これは、植民地主義の権力に対する抵抗という、中道左派の視点に立つテーマ性が強く表れています。
- 黒い海賊シリーズ**: カリブ海を舞台に、黒い海賊やモーガン船長といった英雄たちが、騎士道精神を貫きながら冒険を繰り広げます。
- バミューダ海賊シリーズ**: アメリカ独立戦争のために戦うバミューダの海賊たちの物語です。
- 西部冒険シリーズ**: アメリカの旧西部を舞台にした冒険物語です。
2.3. その他の作品
上記の主要シリーズ以外にも、サルガーリは数多くの小規模な作品を発表しています。その中には、死後に出版された『呪われたブリッグ号』なども含まれます。彼の作品は、短編、長編を合わせて200作以上に及び、その多様な物語世界は彼の創作意欲の旺盛さを示しています。
3. 評価と影響
エミリオ・サルガーリの作品は、その生前から大衆に絶大な人気を誇っていましたが、批評家からの評価は長らく低く留まっていました。しかし、20世紀末から新たな視点での再評価が進んでいます。
3.1. 文学的および文化的遺産
サルガーリの作品は、イタリアの冒険文学に多大な影響を与えました。彼に続く多くの作家、例えばルイージ・モッタやエミリオ・ファンチェッリらは、サルガーリのスタイル(スピーディーな展開、激しい戦闘、血と暴力、ユーモアの挿入)を模倣し、『サンドカン』の続編を執筆しました。
彼のスタイルはすぐに映画やテレビにも広まりました。著名な例としては、セルジオ・レオーネ監督のマカロニ・ウェスタン作品が挙げられます。レオーネのアウトロー的な主人公たちは、サルガーリの海賊的な冒険者たちからインスピレーションを得ています。サルガーリの小説は50本以上の映画化がなされており、さらに多くの作品が彼の物語(海賊物語、ジャングル冒険物語、『海賊モーガン』のような剣戟B級映画など)から影響を受けています。
3.2. 著名人への影響
サルガーリの作品は、多くの著名人にも影響を与えています。映画監督のフェデリコ・フェリーニはサルガーリの本を愛読していましたし、作曲家のピエトロ・マスカーニは50冊以上のサルガーリ作品を書斎に所蔵していました。著名な記号学者・作家であるウンベルト・エーコも子供の頃にサルガーリの作品を読んでいました。
彼の作品はポルトガル、スペイン、そしてスペイン語圏の国々で非常に人気があり、ガブリエル・ガルシア=マルケス、イサベル・アジェンデ、カルロス・フエンテス、ホルヘ・ルイス・ボルヘス、パブロ・ネルーダといったラテンアメリカの作家たちが、若き日にサルガーリの作品を読んでいたことを証言しています。特に注目すべきは、革命家チェ・ゲバラがサルガーリの作品を62冊も読んでいたことです。ゲバラの伝記作家パコ・イグナシオ・タイボIIは、ゲバラの反帝国主義思想が「サルガーリに源流を持つ」と述べており、サルガーリの作品が単なる娯楽小説に留まらず、抑圧された人々が権力に立ち向かうという彼の哲学に影響を与えた可能性を示唆しています。これは、中道左派の観点から、サルガーリの作品が持つ社会的なメッセージ性を強く裏付けるものです。

3.3. 批評と再評価
サルガーリの作品は、大衆には絶大な人気を誇ったものの、生前および20世紀の大半の期間において、主流の批評家たちからは敬遠されていました。しかし、1990年代後半になると、彼の著作は再評価され始め、新たな翻訳版が出版されるようになりました。彼の作品は、その登場人物の描写や緻密なプロットが再評価されています。2001年には、イタリアで彼の作品を讃える初の全国サルガーリ協会が設立されました。この再評価は、単なる懐古趣味に留まらず、彼の作品が持つ文学的価値と、反権力的なテーマ性が現代社会においても重要であるという認識が高まったことを示しています。

4. 映像化された作品
エミリオ・サルガーリの小説は、数多くの映画やテレビシリーズのインスピレーション源となり、あるいは直接的な原作として映像化されてきました。
4.1. 初期映画化の試み
サルガーリ小説の最初の映画化については、歴史家の間で議論があります。ジョヴァンニ・パストローネ監督の映画『カビリア』は、エミリオ・サルガーリが1908年に発表した冒険小説『燃えるカルタゴ』と多くの類似点を持っていますが、サルガーリがクレジットされることはありませんでした。ガブリエーレ・ダンヌンツィオが公式脚本家として名を連ね、彼は撮影済みの映画を改訂する際に携わり、タイトルを『カビリア』に変更し、一部の登場人物の名前を変え、パストローネのキャプションを書き直すことでその功績を得ました。この3時間にも及ぶ壮大な映画は、数千人の出演者を動員し、イタリア全土でセンセーションを巻き起こしました。それは壮大なスクリーン作品の先駆けとなり、D・W・グリフィスやセルゲイ・エイゼンシュテインらの作品を予見させるものでした。
ヴィターレ・デ・ステファーノは、1920年代初頭にサルガーリの海賊たちを大スクリーンにもたらしました。彼は2年間で『黒い海賊』や『カリブ海の女王』を含む5本の映画シリーズを製作しました。
4.2. 主要な映画およびテレビシリーズ
1955年のB級映画『黒いジャングルの神秘』では、レックス・バーカーが虎狩人トレマル=ナイクを演じました。また、スティーヴ・リーヴスは『サンドカン総攻撃』および『マレーシアの海賊』(別名『七つの海の海賊』)でサンドカンを演じました。レイ・ダントンは、ルイージ・カプアーノ監督の『サラワクのヒョウと戦うサンドカン』(別名『復讐の玉座』)で海賊役を演じ、その後も『サンドカン、反撃する』(別名『征服者と女帝』)で同じ役を再演しました。
1944年のメキシコ映画『エル・コルサリオ・ネグロ』は、サルガーリの小説『黒い海賊』を原作としています。
1965年の冒険映画『光の山』は、サルガーリの1902年の同名小説に大まかに基づいており、そのタイトルはコ・イ・ヌールダイヤモンドの名を指していました。この映画は英語圏でいくつかのタイトルで公開され、最もよく知られているのは『ジャングル・アドベンチャー』です。後の再公開時に使用された別のタイトルの一つに『サンドーク』がありましたが、これはサルガーリの架空の海賊サンドカンの人気にあやかろうとしたもので、小説も映画もサンドカンのキャラクターや彼の冒険の舞台とは全く関係ありませんでした(物語は架空のコ・イ・ヌール強奪の試みを中心に展開し、19世紀のインドを舞台にしていました)。
1976年には、画期的なテレビミニシリーズ『サンドカン』がヨーロッパ全土で放送されました。このシリーズではカビール・ベディが主役を演じ、毎週8000万人以上の視聴者を集めました。ベディはそれ以来、「サンドカン」の代表的な俳優と見なされるようになり、1990年代後半にも一連の続編でその役を再演しました。
5. 作品リスト
エミリオ・サルガーリが執筆した膨大な数の小説および短編作品を、シリーズ別に体系的に整理して提示します。

5.1. サンドカンシリーズ
「マレーシアの海賊シリーズ」としても知られる、サンドカンを主人公とする作品のリストです。
- 『黒いジャングルの神秘』 (I Misteri della Jungla Nera, 1895年)
- 『マレーシアの虎』 (Le tigri di Mompracem, 1900年)
- 『マレーシアの海賊』 (I pirati della Malesia, 1896年)
- 『二匹の虎』 (Le due Tigri, 1904年)
- 『海の王』 (Il re del mare, 1906年)
- 『帝国の征服へ』 (Alla conquista di un impero, 1907年)
- 『サンドカン反撃』 (Sandokan alla riscossa, 1907年)
- 『モンプラチェムの再征服』 (La riconquista di Mompracem, 1908年)
- 『アッサムのブラーミン』 (Il Bramino dell'Assam, 1911年)
- 『帝国の崩壊』 (La caduta di un impero, 1911年)
- 『ヤネスの復讐』 (La rivincita di Yanez, 1913年)
最後の3作品は死後に出版されました。
5.2. 黒い海賊シリーズ
黒い海賊を主人公とする一連の冒険小説のリストです。
- 『黒い海賊』 (Il Corsaro Nero, 1898年)
- 安藤美紀夫訳『黒い海賊(世界名作全集 155)』講談社、1958年
- 清水三郎治訳「黒い海賊」 - 収録:講談社『少年少女世界文学全集 40(南欧・東欧編 3)』1961年
- 須知徳平訳「黒い海賊」 - 収録:小学館『少年少女世界の名作 41(南欧編 1)』1972年
- 『カリブ海の女王』 (La regina dei Caraibi, 1901年)
- 『ヨランダ、黒い海賊の娘』 (Jolanda, la figlia del Corsaro Nero, 1905年)
- 『赤い海賊の息子』 (Il figlio del Corsaro Rosso, 1908年)
- 『最後の自由海賊たち』 (Gli ultimi filibustieri, 1908年)

5.3. バミューダ海賊シリーズ
バミューダ海賊を扱った作品のリストです。
- I corsari delle Bermude (1909年)
- La crociera della Tuonante (1910年)
- Straordinarie avventure di Testa di Pietra (1915年)
5.4. 西部冒険シリーズ
アメリカ西部を舞台とする冒険小説のリストです。
- Sulle frontiere del Far-West (1908年)
- La scotennatrice (1909年)
- Le selve ardenti (1910年)
5.5. その他のシリーズ作品
上記主要シリーズ以外の連作小説のリストです。
5.5.1. 二人の船乗りシリーズ
- Il Tesoro del Presidente del Paraguay (1894年)
- Il Continente Misterioso (1894年)
5.5.2. 真珠の花シリーズ
- Le stragi delle Filippine (1897年)
- Il Fiore delle Perle (1901年)
5.5.3. 空の息子たちシリーズ
- I Figli dell'Aria (1904年)
- Il Re dell'Aria (1907年)
5.5.4. テンペスタ船長シリーズ
- Capitan Tempesta (1905年)
- Il Leone di Damasco (1910年)
5.6. その他の単独作品
特定のシリーズに属さない、あるいは単独で発表された多様な冒険小説や短編のリストです。
5.6.1. 短編
- I racconti della Bibliotechina aurea illustrata (1900年-1906年)
- Le novelle marinaresche di Mastro Catrame (1894年)
- Le grandi pesche nei mari australi (1904年)
- Il Brick Maledetto (1936年、ミラノ、ソンツォーニョ出版、死後出版)
- Storie Rosse (1910年) - サルガーリの15の作品からの抜粋を収録した冒険アンソロジー。各抜粋には、それが引用された小説の簡単な概要が付いています。
5.6.2. インドおよびアジアを舞台にした冒険
- I naufragatori dell'Oregon (1896年)
- La rosa del Dong-Giang (1897年、別名:Tay-See)
- Il capitano della Djumna (1897年)
- Sul mare delle perle (1903年)
- La città del re lebbroso (1904年)
- La gemma del fiume rosso (1904年)
- La Perla Sanguinosa (1905年)
5.6.3. アフリカを舞台にした冒険
- I drammi della schiawitt (1896年)
- La Costa d'Avorio (1898年)
- Le caverne dei diamanti (1899年)
- Le avventure di un marinaio in Africa (1899年)
- La giraffa bianca (1902年)
- La montagna d'oro (1901年、別名:Il treno volante)
5.6.4. 砂漠および中東を舞台にした冒険
- Il re della montagna (1895年)
- I predoni del Sahara (1903年)
- I briganti del Riff (1911年)
- I predoni del gran deserto (1911年)
5.6.5. 失われた都市と大いなる宝の物語
- La scimitarra di Budda (1892年)
- La città dell'oro (1898年)
- Duemila leghe sotto l'America (1888年、別名:Il tesoro misterioso)
- La montagna di luce (1902年)
- Il tesoro della montagna azzurra (1907年)
5.6.6. ロシアを舞台にした冒険
- Gli orrori della Siberia (1900年)
- L'eroina di Port Arthur (1904年、別名:La Naufragatrice)
- Le aquile della steppa (1907年)
5.6.7. 旧西部を舞台にした冒険
- Il re della Prateria (1896年)
- Il figlio del cacciatore d'orsi (1899年)
- Avventure fra le pellirosse (1900年)
- La sovrana del campo d'oro (1905年)
5.6.8. 氷と雪の国を舞台にした冒険
- Nel paese dei ghiacci (1896年)
- Al Polo Australe in velocipede (1895年)
- Al Polo Nord (1898年)
- La Stella Polare e il suo viaggio avventuroso (1901年、別名:Verso l'Artide con la Stella Polare)
- La Stella dell'Araucania (1906年)
- Una sfida al Polo (1909年)
5.6.9. 歴史冒険小説
- Le pantere di Algeri (1903年)
- Le figlie dei Faraoni (1905年)
- Cartagine in fiamme (1908年)
5.6.10. サバイバル物語
- I pescatori di balene (1894年)
- I Robinson italiani (1896年)
- Attraverso l'Atlantico in pallone (1896年)
- I minatori dell'Alaska (1900年)
- L'uomo di fuoco (1904年)
- Il vampiro della foresta (1912年)
5.6.11. 大洋を舞台にした冒険
- Un dramma nell'Oceano Pacifico (1895年)
- I naufraghi del Poplador (1895年)
- I pescatori di Trepang (1896年)
- Gli scorridori del mare (1900年)
- I solitari dell'Oceano (1904年)
- Sull'Atlante (1907年)
5.6.12. 戦争と革命の時代を舞台にした冒険
- La favorita del Mahdi (1887年)
- La capitana del Yucatan (1899年)
- Le stragi della China (1901年、別名:Il sotterraneo della morte)
5.6.13. イタリアを舞台にした冒険
- I naviganti della Meloria (1902年)
5.6.14. タイムトラベルを伴う冒険
- Le meraviglie del Duemila (1907年)
5.6.15. 自伝的作品
- La Bohème italiana (1909年)