1. 概要
アディー・ダバグは、パレスチナ出身のプロサッカー選手であり、フォワードとしてそのキャリアを築いてきた。彼は西岸地区プレミアリーグのヒラル・アルクドゥス・クラブでプロデビューを果たし、中東の複数のクラブを経て、プリメイラ・リーガ(ポルトガル)のF.C. アロウカ、ベルギー・プロ・リーグのロイヤル・シャルルロワS.C.、そしてスコティッシュ・プレミアシップのアバディーンFCと、欧州のトップリーグへと活躍の場を広げた。特に、ポルトガルのプリメイラ・リーガでプレーした初のパレスチナ人選手であり、その存在はパレスチナサッカー界における歴史的なマイルストーンとなっている。
ダバグは、2020-21 クウェート・プレミアリーグでアル・アラビをリーグ優勝に導き、自身もリーグ得点王に輝いた。国際舞台ではパレスチナ代表の重要な選手として、2018年バンガバンドゥ・ゴールドカップの優勝に貢献し、2023 AFCアジアカップではチームを初の決勝トーナメント進出へと導くなど、数々の歴史的瞬間を創出してきた。また、2026 FIFAワールドカップ・アジア2次予選では、バングラデシュ戦でハットトリックを達成し、パレスチナ代表を史上初のワールドカップアジア最終予選に導いた。これらの功績は、彼がパレスチナサッカーの発展と国際的な地位向上に果たした多大な貢献を物語っている。彼のキャリアは、パレスチナの人々に希望と誇りを与える象徴として広く認識されている。
2. 生い立ちと背景
2.1. 出生と幼少期
アディー・ダバグは1998年12月3日に、エルサレムの旧市街で生まれた。幼少期からサッカーに情熱を傾け、オランダのストライカーであるロビン・ファン・ペルシを憧れの選手としていた。16歳の若さでヒラル・アルクドゥス・クラブに入団し、プロサッカー選手としてのキャリアをスタートさせた。
3. クラブ経歴
アディー・ダバグのクラブキャリアは、故郷のパレスチナから中東の強豪クラブ、そしてヨーロッパの主要リーグへと段階的に発展していった。
3.1. ヒラル・アルクドゥス
ダバグは2016-17シーズンに16歳でヒラル・アルクドゥス・クラブでプロデビューを果たした。2015年12月26日にはプロ初ゴールを記録し、そのシーズン中にさらに2ゴールを挙げて、チームが西岸地区プレミアリーグでの降格をかろうじて回避するのに貢献した。続くシーズンでは、ヒラル・アルクドゥスが3年連続で西岸地区プレミアリーグを制覇する中で、彼はそれぞれ9、12、16ゴールと得点数を増やしていった。特に、2018-19シーズンには16ゴールを記録し、同リーグのゴールデンブーツ賞を受賞した。また、2017-18シーズンにはパレスチナ・カップとウェストバンク・カップの両方で優勝を経験している。2019年5月6日にはAFCカップにおいて、レバノンのネジメ戦で2ゴールを挙げ、パレスチナ人選手としてのAFCカップ史上最多得点記録を樹立した。
3.2. 中東のクラブ
ヒラル・アルクドゥスでの成功後、ダバグはクウェート・プレミアリーグのアル・サルミヤを経て、カディシヤSCへ移籍した。カディシヤでは、2019年のクウェート・スーパーカップ優勝に貢献したほか、2019-20シーズンのリーグ準優勝、2019年のクウェート・アミール・カップ準優勝に貢献した。その後、アル・ヤルムークSCに一時期限付き移籍した後、2021年1月14日にアル・アラビへ移籍した。アル・アラビでは、2020-21シーズンにチームをリーグ優勝へと導き、自身もリーグ戦13ゴールを挙げて得点王のタイトルを獲得した。
3.3. 欧州での経歴
中東での輝かしい活躍を経て、ダバグは欧州リーグへの挑戦を決意し、パレスチナ人選手として新たな道を切り開いた。
3.3.1. F.C. アロウカ
2021年8月21日、ダバグはポルトガルのプリメイラ・リーガに所属するアロウカと2年契約を結び、キャリアで初めて欧州リーグへ移籍した。2021年8月28日にはポルト戦に80分から途中出場し、デビューを果たした。同年9月18日にはヴィトーリア・デ・ギマラインス戦で移籍後初ゴールを記録し、チームの2-2の引き分けに貢献した。2023年1月7日のエストリル戦では移籍後初の2ゴールを挙げ、2-0の勝利に貢献した。さらにその2試合後のポルティモネンセ戦でも2ゴールを決め、4-0での勝利に貢献した。アロウカでの2シーズンで、彼は公式戦45試合に出場し15ゴールを記録した。特に2022-23シーズンには、ラファ・ムヒカに次ぐチーム2位の8ゴールを挙げ、チームのプリメイラ・リーガ7年ぶりの5位という好成績と、クラブ史上初のタサ・ダ・リーガ準決勝進出に貢献した。
3.3.2. ロイヤル・シャルルロワS.C.
2023年7月1日、ダバグはベルギー・プロ・リーグのシャルルロワと3年契約を結んで完全移籍した。移籍後初となる2023年7月29日のOHルーヴェン戦では、デビュー戦で早速初ゴールを記録し、1-1の引き分けに貢献した。2023-24シーズンでは、公式戦29試合に出場し6ゴールを挙げる活躍を見せ、チームの1部リーグ残留に貢献した。
3.3.3. アバディーンF.C.
2025年2月2日、ダバグはスコティッシュ・プレミアシップのアバディーンへシーズン終了までの期限付き移籍が発表された。契約には買い取りオプションも含まれている。
4. 代表経歴
アディー・ダバグは、パレスチナのユース代表からA代表に至るまで、各世代の代表チームで重要な役割を果たしてきた。
4.1. ユース代表
ダバグはパレスチナU-23代表の一員として、アゼルバイジャンで開催された2017年イスラム連帯競技大会に出場した。この大会では3ゴールを挙げ、得点王に輝いたものの、チームは1分け2敗でグループリーグ最下位となり敗退した。しかし、翌年に開催された2018年アジア競技大会では、開催国インドネシアとのグループA第2戦で先制ゴールを記録し、パレスチナの2大会連続となる決勝トーナメント進出に貢献した。
4.2. A代表
2018年3月27日、パレスチナがすでにAFCアジアカップ本大会への2大会連続出場を決めた中で行われたオマーンとの2019 AFCアジアカップ最終予選D組最終戦で、アディー・ダバグは国際Aマッチデビューを飾った。同年9月6日のキルギスとの親善試合では、A代表初ゴールを記録した。
その1か月後にはバンガバンドゥ・カップに出場し、パレスチナを2014年のAFCチャレンジカップ以来4年ぶりとなる国際大会優勝へと導いた。翌2019 AFCアジアカップ本大会では、オーストラリアとヨルダン戦に出場し、パレスチナに史上初のアジアカップでの勝ち点獲得をもたらした。同年にはシリアとの2019年西アジアサッカー選手権グループA最終戦で複数得点を挙げ、チームを大会3位へと導いた。
そして、その約3年5か月後に開催された2023 AFCアジアカップのメンバーに選出され、2024年1月1日に代表チームに合流した。55年ぶりにアジアカップ本大会に出場した香港とのグループC最終戦では、2ゴールを記録し、パレスチナに主要国際大会での初の勝利と、史上初の決勝トーナメント進出という歴史的な快挙をもたらした。さらに、開催国でありディフェンディングチャンピオンであるカタールとの決勝トーナメント1回戦でも先制ゴールを決めるなど、この大会で計3ゴールを挙げ、目覚ましい活躍を見せた。
2024年3月21日、バングラデシュとの2026 FIFAワールドカップ・アジア2次予選I組第3戦で、A代表デビューから6年目にして自身初のハットトリックを達成し、5-0での大勝に貢献した。この勝利は、パレスチナサッカー史上初のワールドカップアジア最終予選進出、そして4大会連続でのAFCアジアカップ本大会出場という偉業を後押しする重要な一歩となった。ダバグは、その類まれな得点能力と代表チームへの貢献により、パレスチナ代表の歴代最多得点者としてその名を刻んでいる。
5. 栄誉と記録
アディー・ダバグは、そのキャリアを通じて数多くの栄誉と記録を達成してきた。
5.1. クラブでの栄誉
- ヒラル・アルクドゥス・クラブ
- 西岸地区プレミアリーグ: 2016-17, 2017-18, 2018-19
- パレスチナ・カップ: 2017-18
- ウェストバンク・カップ: 2017-18
- カディシヤSC
- クウェート・スーパーカップ: 2019
- アル・アラビ
- クウェート・プレミアリーグ: 2020-21
5.2. 代表での栄誉
- パレスチナ
- バンガバンドゥ・カップ: 2018
5.3. 個人タイトル
- イスラム連帯競技大会得点王: 2017
- 西岸地区プレミアリーグ得点王: 2018-19
- クウェート・プレミアリーグ得点王: 2020-21
6. キャリア成績
6.1. クラブ成績
2025年2月25日現在
クラブ | リーグ | シーズン | 国内カップ | リーグカップ | 合計 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
ディビジョン | 出場 | 得点 | 出場 | 得点 | 出場 | 得点 | 出場 | 得点 | ||
アロウカ | 2021-22 | プリメイラ・リーガ | 23 | 4 | 1 | 0 | - | 24 | 4 | |
2022-23 | 14 | 7 | 2 | 1 | 5 | 3 | 21 | 11 | ||
合計 | 37 | 11 | 3 | 1 | 5 | 3 | 45 | 15 | ||
シャルルロワ | 2023-24 | ベルギー・プロ・リーグ | 27 | 5 | 2 | 1 | - | 29 | 6 | |
2024-25 | 15 | 1 | 0 | 0 | - | 15 | 1 | |||
合計 | 42 | 6 | 2 | 1 | - | 44 | 7 | |||
アバディーン (期限付き移籍) | 2024-25 | スコティッシュ・プレミアシップ | 3 | 1 | 0 | 0 | - | 3 | 1 | |
キャリア合計 | 82 | 18 | 5 | 2 | 5 | 3 | 92 | 23 |
6.2. 代表成績
2024年3月21日現在
スコアと結果の列は、パレスチナの得点数を先行して示しており、スコア列はダバグの各ゴール後の得点状況を示します。
No. | 日付 | 会場 | 対戦相手 | スコア | 結果 | 大会 |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2018年9月6日 | ドーレン・オムルザコフ・スタジアム、ビシュケク、キルギス | キルギス | 1-1 | 1-1 | 親善試合 |
2 | 2019年8月11日 | カルバラー国際スタジアム、カルバラー、イラク | シリア | 2-1 | 4-3 | 2019 WAFFチャンピオンシップ |
3 | 3-1 | |||||
4 | 2019年9月5日 | ファイサル・アル=フセイニ国際スタジアム、アル・ラム、パレスチナ | ウズベキスタン | 1-0 | 2-0 | 2022 FIFAワールドカップ予選 |
5 | 2021年6月3日 | キング・ファハド国際スタジアム、リヤド、サウジアラビア | シンガポール | 2-0 | 4-0 | 2022 FIFAワールドカップ予選 |
6 | 2021年6月15日 | キング・ファハド国際スタジアム、リヤド、サウジアラビア | イエメン | 1-0 | 3-0 | 2022 FIFAワールドカップ予選 |
7 | 3-0 | |||||
8 | 2021年6月24日 | ジャシム・ビン・ハマド・スタジアム、ドーハ、カタール | コモロ | 2-1 | 5-1 | 2021 FIFAアラブカップ予選 |
9 | 2022年6月8日 | MFFフットボール・センター、ウランバートル、モンゴル | モンゴル | 1-0 | 1-0 | 2023 AFCアジアカップ予選 |
10 | 2022年6月11日 | MFFフットボール・センター、ウランバートル、モンゴル | イエメン | 1-0 | 5-0 | 2023 AFCアジアカップ予選 |
11 | 2024年1月23日 | アブドゥッラー・ビン・ハリファ・スタジアム、ドーハ、カタール | 香港 | 1-0 | 3-0 | 2023 AFCアジアカップ |
12 | 3-0 | |||||
13 | 2024年1月29日 | アル・バイト・スタジアム、アル・ホール、カタール | カタール | 1-0 | 1-2 | 2023 AFCアジアカップ |
14 | 2024年3月21日 | ジャビル・アル=アフマド国際スタジアム、クウェート市、クウェート | バングラデシュ | 1-0 | 5-0 | 2026 FIFAワールドカップ予選 |
15 | 4-0 | |||||
16 | 5-0 |
7. 遺産と評価
アディー・ダバグは、その卓越したサッカーの才能と、パレスチナ人としてのアイデンティティを体現する存在として、パレスチナサッカー界に計り知れない影響を与えている。
7.1. パレスチナサッカーへの影響
アディー・ダバグは、パレスチナ代表のエースであり、歴代最多得点者として、同国サッカーの国際的な知名度と地位向上に大きく貢献した。彼がポルトガルのプリメイラ・リーガでプレーした初のパレスチナ人選手となったことは、後進の選手たちにとって大きな希望と目標となり、パレスチナサッカーの未来に明るい光を灯している。彼の成功は、困難な状況下にあるパレスチナの人々にとって、スポーツを通じて逆境を乗り越え、結束と誇りを示す象徴となっている。ダバグの活躍は、サッカーが単なる競技に留まらず、国民的なアイデンティティを形成し、連帯感を育む強力なツールであることを示している。
7.2. 歴史的評価
アディー・ダバグのキャリアは、単なる一選手の成功物語に留まらない。彼は、パレスチナの若者たちにとってのロールモデルであり、希望の象徴である。そのプレーは、サッカーという普遍的な言語を通じて、世界にパレスチナの存在をアピールする機会となっている。国際大会での歴史的なゴールや、チームを新たな高みへと導いた功績は、パレスチナサッカー史に深く刻まれることになるだろう。彼の遺産は、スポーツの力を通じて、パレスチナの人々が直面する課題の中でも、夢を追い、達成できることを証明している。ダバグは、スポーツの分野でパレスチナの国旗を掲げ、国際社会における認知度と尊敬を高める上で極めて重要な役割を果たしており、その影響は今後も長く語り継がれると評価されている。