1. 概要

エリク・エンデル・パールタル(Erik Endel Paartaluエリク・エンデル・パールタル英語、1986年5月3日 - )は、オーストラリアの元サッカー選手。主に守備的ミッドフィールダーとして活躍しました。オーストラリアの他、スコットランド、中国、タイ、韓国、カタール、インドといった多様な国々のリーグでプレーし、そのキャリアを通じてチームの成功に大きく貢献しました。特にブリスベン・ロアーFCでは、中盤の要として2度のAリーグ優勝に貢献し、その「鉄人」としての活躍は高く評価されています。異文化のリーグでの挑戦や適応の困難に直面しながらも、常にチームへの献身と貢献を追求し、その選手としてのキャリアを通じて不屈の精神と適応能力を示し続けました。
2. 幼少期とキャリア初期
エリク・パールタルは、サッカー選手としてのキャリアをスタートする前に、その個人的な背景と若年期のサッカー教育を通じて基礎を築きました。
2.1. 出生と幼少期
エリク・パールタルは1986年5月3日にオーストラリアのシドニーで生まれました。彼はエストニア系の血筋を持つとされています。
2.2. ユースサッカーの発展
パールタルは、ニュー・サウス・ウェールズ・インスティチュート・オブ・スポーツの育成プログラムでサッカーを学び始めました。その後、ノーザン・スピリットFCのユースチームに所属し、プロサッカー選手としての基礎を固めていきました。これらの初期の経験が、彼の後のプロキャリアにおける適応能力とプレースタイルの基盤となりました。
3. クラブキャリア
エリク・パールタルのプロサッカー選手としてのクラブキャリアは、オーストラリア国内から始まり、その後スコットランド、アジア諸国へと広がりました。
3.1. NSLとオーストラリアでのキャリア初期
パールタルは、ナショナル・サッカーリーグ(NSL)のノーザン・スピリットFCでキャリアをスタートさせました。しかし、トップチームでの出場は2004年1月11日のメルボルン・ナイツFC戦での途中出場のみに終わりました。ノーザン・スピリットの解散後、彼はニュー・サウス・ウェールズ・ウィンター・スーパーリーグのノーザン・タイガースFCに移籍し、2004シーズンには17試合に出場し4得点を記録しました。同年中にニュー・サウス・ウェールズ・プレミアリーグのパラマッタFCへ移籍し、2006シーズン後半までプレーを続けました。
3.2. スコットランドリーグでの活動
2006年、パールタルはイギリスでのキャリアを模索し、イングランドのフットボールリーグ1に所属するドンカスター・ローヴァーズFCのトライアルに参加しました。契約が期待されましたが、監督の交代により移籍は実現しませんでした。
同年9月、パールタルはスコットランドのグレトナFCに短期契約で加入しました。ここでは目覚ましい活躍を見せ、2007年1月に2年半の長期契約を獲得しました。2008年1月には、スターリング・アルビオンFCへ2007-08シーズン終了までの期限付き移籍を経験。1月5日のハミルトン・アカデミカルFC戦でデビューを果たし、リヴィングストンFC戦ではスターリング・アルビオンでの唯一の得点を記録しました。

2008年3月、グレトナFCが財政破綻により選手を放出する事態となり、パールタルもその影響を受けました。その後、彼はグリノック・モートンFCに加入し、クラブのスコティッシュ・フットボールリーグ・ファースト・ディヴィジョン残留に貢献。この功績が認められ、2008年4月には2010年までの2年契約を結びました。
3.3. ブリスベン・ロアーでの躍進
グリノック・モートンFCとの契約が満了に近づく中、エリク・パールタルは2010年2月24日にブリスベン・ロアーFCと事前契約を結び、移籍を決定しました。ブリスベン・ロアーでは、彼はすぐにチームの重要な選手となり、中盤の要として、そして重要な得点源として活躍しました。
2011 Aリーググランドファイナルでの彼の活躍は、キャリアの決定的な瞬間となりました。延長戦にもつれ込んだ試合で、120分に同点ゴールを決め、チームをPK戦に導きました。PK戦でも2人目のキッカーとして成功させ、チームの優勝に大きく貢献しました。このシーズン、彼はゴールドコースト・ユナイテッドFC戦で決めたボレーシュートがAリーグ年間最優秀ゴールに選出されました。

翌2011-12シーズンのAリーグファイナルシリーズ第1試合では、強烈なシュートでゴールを決め、2-0の勝利に貢献しました。パールタルは、2010-11シーズンと2011-12シーズンのAリーグおよびAFCチャンピオンズリーグ、そしてファイナルシリーズを含め、ブリスベン・ロアーで85試合連続でスターティングメンバーとして出場し、「鉄人」と称されるほどの耐久性とチームへの貢献度を見せました。
3.4. アジア展開とキャリア後半
ブリスベン・ロアーでの成功後、エリク・パールタルはアジアのリーグへと活動の場を広げ、その後も様々な国でプレーを続けました。
3.4.1. 天津泰達 (中国)
2013年1月21日、パールタルは中国サッカー・スーパーリーグの天津泰達足球倶楽部と3年契約を結んだことが発表されました。中国リーグでの経験は彼のキャリアに新たな側面をもたらしました。
3.4.2. ムアントン・ユナイテッド (タイ)
2014年2月に天津泰達を退団した後、パールタルはタイ・プレミアリーグのムアントン・ユナイテッドFCと契約しました。同年7月には、ニューカッスル・ユナイテッド・ジェッツFCから国内のマーキープレーヤーとしてのオファーを受けましたが、ムアントン・ユナイテッドでの契約を全うすることを選択しました。ニューカッスル・ジェッツはその後も彼への関心を示しましたが、結果として移籍は実現しませんでした。
3.4.3. メルボルン・シティ (オーストラリア)
2014年9月15日、エリク・パールタルはメルボルン・シティFCと4年契約を結びました。彼はこの移籍について、「フィールドの内外を問わず成功への強い意欲を持つクラブに所属したかった。そしてメルボルン・シティFCがまさにそのクラブだった」と述べています。メルボルン・シティでは約2シーズンにわたって40試合に出場し7得点を記録しました。その後、大韓民国での新たな機会を追求するため、2016年2月2日にクラブを退団しました。
3.4.4. 全北現代モータース (韓国)
メルボルン・シティFCを退団した後、パールタルはKリーグクラシックの全北現代モータースと1年契約で加入しました。しかし、彼はチームに加入してからわずか3ヶ月で、当時の崔康熙監督から韓国リーグの速いサッカーへの適応の困難を理由にメンバー外となり、単独での練習を命じられるなど厳しい状況に置かれました。Kリーグでの登録名は「파탈루パタル韓国語」でした。この短い期間は、彼のキャリアにおける困難な時期の一つとなりました。
3.4.5. アル・フライティヤート (カタール)
全北現代モータースでの厳しい状況を経て、2016年10月にパールタルはカタール・スターズリーグのアル・フライティヤートSCへ期限付き移籍しました。この移籍は、彼が新たな環境でプレー機会を求める動きでした。
3.4.6. ベンガルールFC (インド)
2017年7月5日、エリク・パールタルはインド・スーパーリーグのベンガルールFCと1年契約を結びました。同年11月にはデリー・ダイナモスFC戦で2得点を挙げる活躍を見せました。2018年3月14日には、彼の契約が2020年末まで延長されることが発表されました。彼は2018-19 インド・スーパーリーグの優勝メンバーとなり、翌2019-20シーズンにはクラブで5アシストを記録し、アシスト数でチームトップとなりました。このシーズン終了後、彼はベンガルールFCとの契約をさらに2年間延長しました。パールタルは「過去3年間、ベンガルールは私の心の中で特別な場所を占めていた。この街を離れるたびに、なぜかまた引き寄せられてしまう」と述べ、クラブへの強い愛着を示しました。2021年9月、ベンガルールFCはパールタルとの双方合意による契約解除を発表し、彼はクラブを離れることになりました。
4. 代表キャリア
エリク・パールタルは、オーストラリアの年代別代表チームからA代表チームまで、国際舞台でオーストラリアを代表してプレーしました。
彼は2003 FIFA U-17世界選手権にオーストラリアU-17代表として出場し、この大会の3試合すべてに出場しました。
A代表としては、2012年2月21日に2014 FIFAワールドカップ・アジア3次予選のサウジアラビア代表戦で「サッカールーズ」に招集されました。また、2013年に行われた東アジアカップ2013では、韓国代表戦と中国代表戦の2試合に出場しました。
5. キャリア統計
5.1. クラブ
クラブ | シーズン | リーグ | カップ戦 | その他 (国際クラブ大会) | 合計 | |||||
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ディビジョン | 出場 | 得点 | 出場 | 得点 | 出場 | 得点 | 出場 | 得点 | ||
ノーザン・スピリットFC | 2003-04 | ナショナル・サッカーリーグ | 1 | 0 | - | - | 1 | 0 | ||
ノーザン・タイガースFC | 2004 | ナショナル・プレミアリーグス NSW2 | 17 | 4 | - | - | 28 | 8 | ||
グレトナFC | 2007-08 | スコティッシュ・プレミアリーグ | 9 | 0 | 2 | 0 | - | 11 | 0 | |
スターリング・アルビオンFC (loan) | 2007-08 | スコティッシュ・ファーストディヴィジョン | 10 | 1 | 0 | 0 | - | 10 | 1 | |
グリノック・モートンFC | 2007-08 | スコティッシュ・ファーストディヴィジョン | 5 | 0 | 0 | 0 | - | 5 | 0 | |
2008-09 | スコティッシュ・ファーストディヴィジョン | 27 | 3 | 5 | 1 | - | 32 | 4 | ||
2009-10 | スコティッシュ・ファーストディヴィジョン | 26 | 3 | 1 | 0 | - | 27 | 3 | ||
合計 | 58 | 6 | 6 | 1 | - | 64 | 7 | |||
ブリスベン・ロアーFC | 2010-11 | Aリーグ | 33 | 4 | - | - | 33 | 4 | ||
2011-12 | Aリーグ | 30 | 4 | - | - | 30 | 4 | |||
2012-13 | Aリーグ | 16 | 2 | - | 6 | 0 | 22 | 2 | ||
合計 | 79 | 10 | - | 6 | 0 | 85 | 10 | |||
天津泰達足球倶楽部 | 2013 | 中国サッカー・スーパーリーグ | 30 | 4 | 0 | 0 | - | 30 | 4 | |
ムアントン・ユナイテッドFC | 2014 | タイ・プレミアリーグ | 21 | 2 | - | - | 21 | 2 | ||
メルボルン・シティFC | 2014-15 | Aリーグ | 26 | 3 | 0 | 0 | - | 26 | 3 | |
2015-16 | Aリーグ | 16 | 4 | 2 | 0 | - | 18 | 4 | ||
合計 | 42 | 7 | 2 | 0 | - | 44 | 7 | |||
全北現代モータース | 2016 | Kリーグクラシック | 2 | 0 | 0 | 0 | 4 | 0 | 6 | 0 |
アル・フライティヤートSC | 2016-17 | カタール・スターズリーグ | 9 | 0 | 0 | 0 | - | 9 | 0 | |
ベンガルールFC | 2017-18 | インド・スーパーリーグ | 18 | 3 | 4 | 0 | 11 | 3 | 33 | 6 |
2018-19 | インド・スーパーリーグ | 14 | 2 | 0 | 0 | 0 | 0 | 14 | 2 | |
2019-20 | インド・スーパーリーグ | 17 | 2 | 0 | 0 | 4 | 0 | 21 | 2 | |
2020-21 | インド・スーパーリーグ | 18 | 2 | 0 | 0 | 1 | 0 | 19 | 2 | |
合計 | 67 | 9 | 4 | 0 | 16 | 3 | 87 | 12 | ||
キャリア通算 | 345 | 43 | 14 | 1 | 26 | 3 | 385 | 47 |
6. 栄誉
エリク・パールタルがキャリア中に獲得した主なクラブ、国際大会、個人タイトルは以下の通りです。
6.1. クラブ
- グレトナFC
- スコティッシュ・フットボールリーグ・ファースト・ディヴィジョン: 2006-07
- ブリスベン・ロアーFC
- Aリーグ チャンピオンシップ: 2010-11、2011-12
- Aリーグ プレミアシップ: 2010-11
- 全北現代モータース
- AFCチャンピオンズリーグ: 優勝 2016
- ベンガルールFC
- インド・スーパーリーグ: 2017-18(リーグ戦首位)
- インド・スーパーリーグ: 2018-19(リーグ戦首位およびプレーオフ優勝)
- スーパーカップ: 2018
6.2. 国際
- オーストラリア U-17
- OFC U-17選手権: 2003
6.3. 個人
- Aリーグ年間最優秀ゴール: 2010-11
7. 評価と功績
エリク・パールタルの選手キャリア全般は、その多様な経験とチームへの献身によって特徴づけられます。
7.1. ポジティブな評価
パールタルは、特にブリスベン・ロアーFC時代にチームの中心選手として、中盤の要として卓越したパフォーマンスを発揮しました。彼は守備的ミッドフィールダーとしてだけでなく、重要な局面での得点能力も持ち合わせ、2011 Aリーググランドファイナルでの劇的な同点ゴールはその象徴です。また、2010-11シーズンと2011-12シーズンにわたる85試合連続のスターティングメンバーとしての出場は、彼の耐久力と信頼性を示す「鉄人」としての側面を強調しています。この期間を通じて、彼はチームの2度のAリーグ優勝と1度のプレミアシップ獲得に不可欠な貢献をしました。インドのベンガルールFCでもリーグ優勝に貢献し、チームのアシスト王になるなど、異国の地でもその能力を発揮し、成功を収めました。彼のプレーは常にチームの利益を最優先し、勝利への強いコミットメントを示していました。
7.2. 課題と批判的な視点
パールタルのキャリアは、常に順風満帆だったわけではありません。スコットランドでの初期の挑戦では、ドンカスター・ローヴァーズFCへの移籍が監督交代により実現せず、また所属していたグレトナFCが財政破綻により選手を放出するという困難に直面しました。特に全北現代モータースでの経験は、彼のキャリアにおける大きな試練でした。韓国リーグのプレースタイルへの適応に苦しみ、わずか3ヶ月でチームの構想から外され、単独練習を強いられるなど、精神的にも肉体的にも厳しい状況を経験しました。しかし、彼はこのような課題に直面しながらも、粘り強く新たな道を模索し、その後のベンガルールFCでの成功へと繋げました。これらの経験は、彼のキャリアの多様性と、困難を乗り越えるための彼の回復力と適応能力を浮き彫りにしています。