1. 幼少期とキャリアの始まり
トマス・ダニレヴィチュスは、1978年7月18日にソビエト連邦リトアニア・ソビエト社会主義共和国のクライペダで生まれた。幼少期よりサッカーに親しみ、FKアトランタスのユースアカデミーで才能を磨き、1994年から1995年までユースチームに所属した。1995年には同クラブでプロキャリアを開始したが、出場機会はなかった。
2. クラブ経歴
ダニレヴィチュスは、キャリアを通じて欧州の様々なクラブでプレーし、特にイタリアのクラブで長く活躍した。
2.1. 欧州での初期キャリア
1996年、ダニレヴィチュスはジュピラー・プロ・リーグのクラブ・ブルッヘに移籍し、プロとしての本格的なキャリアをスタートさせた。1996年12月3日に行われたUEFAカップのシャルケ04戦で、86分にフィタル・ボルケルマンスとの交代で途中出場し、同クラブでのデビューを飾った。彼はクラブ・ブルッヘ在籍中に1995-96シーズンにジュピラー・プロ・リーグで優勝している。
その後、FCディナモ・モスクワ(ロシア)、FCローザンヌ・スポルト(スイス)でプレーした。2000年にはイングランドの強豪アーセナルFCに移籍。リーグ戦には2試合出場(サンダーランドAFC戦、チャールトン・アスレティックFC戦)したのみであったが、FCバルセロナとのプレシーズンマッチではゴールを決めている。2000年12月30日のサンダーランドAFC戦では、ティエリ・アンリに代わり79分から出場し、プレミアリーグに初出場を果たした。
アーセナル在籍中にはダンファームリン・アスレティックFC(スコットランド)へ期限付き移籍を経験した。その後、KSKベフェレン(ベルギー)に所属し、29試合で12得点を記録するなど、ヨーロッパでの初期キャリアで経験を積んだ。
2.2. イタリアを中心としたキャリアと後期クラブ
2002-03シーズンからイタリアのセリエBに所属するASリヴォルノ・カルチョに加入し、イタリアでの挑戦を開始した。2002年9月14日に行われたエラス・ヴェローナFC戦でイタリアでの初出場を飾り、翌年3月30日のSSCヴェネツィア戦で移籍後初ゴールを記録した。リヴォルノは同シーズンを3位で終え、セリエAへの昇格を果たした。2004年9月26日のアタランタBC戦で、36分にルカ・ヴィジャーニとの交代でセリエAデビューを飾った。2005-06シーズンはUSアヴェッリーノ1912へ期限付き移籍し、38試合で17得点と高い得点能力を見せた。
2007年1月にはセリエBのボローニャFCへ移籍。この移籍は共同保有契約で、移籍金は200.00 万 EURであった。ボローニャで1年を過ごした後、2008年1月にはUSグロッセート1912へ6か月の期限付き移籍をした。2008年6月には、移籍金40.00 万 EUR、4年契約でリヴォルノに復帰した。
2011年にはSSユーヴェ・スタビアへ自由移籍で加入し、2011-12シーズンと2012-13シーズンにプレー。2013年にはパルマFCと契約したが、直後にスロベニアのNDゴリツァに期限付き移籍し、2013-14シーズンにプレーした。この時期、USラティーナ・カルチョへ期限付き移籍し、2012-13シーズンにコッパ・イタリア・レガ・プロで優勝を経験している。ゴリツァではスロベニア・カップで優勝した。
3. 代表経歴
ダニレヴィチュスは、リトアニア代表の重要な選手であり、キャプテンも務めた。
3.1. 代表での出場とゴール
彼は1998年にリトアニア代表にデビューし、通算72試合に出場した。2009年9月時点で、リトアニア代表として19得点を記録し、これはリトアニア代表の歴代最多得点記録となっている。彼の卓越した得点能力は、長年にわたり代表チームの攻撃を牽引し、多くの国際試合で重要な役割を果たした。
4. キャリア統計
ダニレヴィチュスのクラブおよび代表チームでの試合出場および得点記録を以下に示す。
4.1. クラブ統計
| クラブ | シーズン | リーグ | カップ戦 | 欧州カップ戦 | 合計 | |||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| ディビジョン | 出場 | 得点 | 出場 | 得点 | 出場 | 得点 | 出場 | 得点 | ||
| アーセナル | 2000-01 | プレミアリーグ | 2 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 3 | 0 |
| ベフェレン | 2001-02 | ジュピラー・プロ・リーグ | 26 | 10 | 3 | 1 | 0 | 0 | 29 | 11 |
| リヴォルノ | 2002-03 | セリエB | 21 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 21 | 1 |
| 2003-04 | 22 | 4 | 0 | 0 | 0 | 0 | 22 | 4 | ||
| 2004-05 | 17 | 2 | 2 | 1 | 0 | 0 | 19 | 3 | ||
| 合計 | 60 | 7 | 2 | 1 | 0 | 0 | 62 | 8 | ||
| アヴェッリーノ (loan) | 2005-06 | セリエB | 38 | 17 | 3 | 0 | 0 | 0 | 41 | 17 |
| リヴォルノ | 2006-07 | セリエA | 13 | 3 | 2 | 0 | 5 | 1 | 20 | 4 |
| ボローニャ (loan) | 2006-07 | セリエB | 13 | 2 | 0 | 0 | 0 | 0 | 13 | 2 |
| ボローニャ (loan) | 2007-08 | セリエB | 7 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 7 | 0 |
| グロッセート (loan) | 2007-08 | セリエB | 22 | 9 | 0 | 0 | 0 | 0 | 22 | 9 |
| リヴォルノ | 2008-09 | セリエB | 27 | 4 | 4 | 2 | 0 | 0 | 31 | 6 |
| 2009-10 | セリエA | 26 | 5 | 3 | 1 | 0 | 0 | 29 | 6 | |
| 2010-11 | セリエB | 23 | 5 | 2 | 0 | 0 | 0 | 25 | 5 | |
| 合計 | 76 | 14 | 9 | 3 | 0 | 0 | 85 | 17 | ||
| ユーヴェ・スタビア | 2011-12 | セリエB | 33 | 5 | 1 | 0 | 0 | 0 | 34 | 5 |
| 2012-13 | 16 | 7 | 2 | 2 | 0 | 0 | 18 | 9 | ||
| 合計 | 49 | 12 | 3 | 2 | 0 | 0 | 52 | 14 | ||
| ラティーナ (loan) | 2012-13 | レガ・プロ・プリマ・ディヴィジオーネ | 11 | 2 | 2 | 0 | 0 | 0 | 13 | 2 |
| ゴリツァ (loan) | 2013-14 | スロベニア・プルヴァリーガ | 11 | 1 | 3 | 2 | 0 | 0 | 14 | 3 |
| キャリア合計 | 328 | 77 | 28 | 9 | 5 | 1 | 361 | 87 | ||
4.2. 代表ゴール
リトアニア代表チームで記録した各ゴールを以下に示す。スコア欄はダニレヴィチュスのゴール後のスコアを示す。
| No. | 日付 | 会場 | 対戦相手 | スコア | 結果 | 大会 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 2001年2月26日 | リマソール、キプロス | キプロス | 1-1 | 2-1 | トーナメント |
| 2 | 2004年8月18日 | モスクワ、ロシア | ロシア | 1-1 | 3-4 | 親善試合 |
| 3 | 2004年9月8日 | カウナス、リトアニア | サンマリノ | 3-0 | 4-0 | 2006 FIFAワールドカップ・ヨーロッパ予選 |
| 4 | 2006年3月1日 | ティラナ、アルバニア | アルバニア | 2-1 | 2-1 | 親善試合 |
| 5 | 2006年8月16日 | キシナウ、モルドバ | モルドバ | 2-1 | 2-3 | 親善試合 |
| 6 | 2006年9月2日 | ナポリ、イタリア | イタリア | 1-0 | 1-1 | UEFA EURO 2008予選 |
| 7 | 2006年11月11日 | パオラ、マルタ | マルタ | 1-0 | 4-1 | 親善試合 |
| 8 | 3-0 | |||||
| 9 | 2007年8月22日 | カウナス、リトアニア | トルクメニスタン | 1-0 | 2-1 | 親善試合 |
| 10 | 2-0 | |||||
| 11 | 2007年9月8日 | グラスゴー、スコットランド | スコットランド | 1-1 | 1-3 | UEFA EURO 2008予選 |
| 12 | 2007年9月12日 | カウナス、リトアニア | フェロー諸島 | 2-0 | 2-1 | UEFA EURO 2008予選 |
| 13 | 2007年11月17日 | カウナス、リトアニア | ウクライナ | 2-0 | 2-0 | UEFA EURO 2008予選 |
| 14 | 2008年8月20日 | マリヤンポレ、リトアニア | モルドバ | 3-0 | 3-0 | 親善試合 |
| 15 | 2008年9月10日 | マリヤンポレ、リトアニア | オーストリア | 1-0 | 2-0 | 2010 FIFAワールドカップ・ヨーロッパ予選 |
| 16 | 2-0 | |||||
| 17 | 2008年10月15日 | カウナス、リトアニア | フェロー諸島 | 1-0 | 1-0 | FIFAワールドカップ2010予選 |
| 18 | 2009年8月13日 | スタッド・ヨジー・バーテル、ルクセンブルク | ルクセンブルク | 1-0 | 1-0 | 親善試合 |
| 19 | 2009年9月9日 | トフティル、フェロー諸島 | フェロー諸島 | 1-1 | 1-2 | FIFAワールドカップ2010予選 |
5. 幹部としてのキャリア
サッカー選手としてのキャリアを終えた後、ダニレヴィチュスはリトアニアサッカー連盟の運営に携わるようになった。彼は2017年9月30日に同連盟の会長に就任し、2023年3月10日までその職を務めた。会長在任中には、前任のヴィドマンタス・ブトケヴィチュスから引き継ぎ、エドガラス・スタンケヴィチュスに引き継いだ。この役職は、長年の経験とリトアニアサッカーへの深い愛情を活かし、国内サッカーの発展に貢献するという彼の意欲を示すものであった。
6. 功績と栄誉
ダニレヴィチュスは、選手生活において数々の栄誉を獲得し、そのキャリアはリトアニアサッカー界に大きな足跡を残した。
6.1. クラブ栄誉
- クラブ・ブルッヘ
- ジュピラー・プロ・リーグ: 1995-96
- ラティーナ
- コッパ・イタリア・レガ・プロ: 2012-13
- ゴリツァ
- ポカル・ノゴメトネ・ズヴェゼ・スロヴェニイェ: 2013-14
6.2. 個人栄誉
- リトアニア年間最優秀サッカー選手賞: 2006年, 2007年
7. 遺産と影響
トマス・ダニレヴィチュスは、リトアニアサッカーの歴史において、その記録とリーダーシップの両面で顕著な遺産を残した。特に、リトアニア代表の歴代最多得点者という地位は、彼が国家レベルで果たした攻撃的貢献の証である。長年にわたり代表チームのキャプテンを務めた経験は、チーム内外での彼の影響力と模範的な姿勢を物語っている。
現役引退後、リトアニアサッカー連盟会長として国内サッカーの発展に尽力したことは、彼が単なる名選手にとどまらず、リトアニアサッカー全体の未来を担うビジョナリーとしての役割も果たしたことを示している。彼の指導力と経験は、後進の育成やサッカー環境の改善にも大きく寄与し、リトアニアサッカーの継続的な成長に不可欠な存在であった。彼のキャリア全体は、リトアニアのスポーツ文化における彼の永続的な影響を示しており、彼の功績は今後も長く記憶されるだろう。