1. 生い立ちと背景
マゴメドラサル・マジドフは、1986年9月27日に旧ソビエト連邦のダゲスタン自治ソビエト社会主義共和国(現在のロシア・ダゲスタン共和国、アクシンスキー地区)で生まれた。彼はアゼルバイジャン国籍を持ち、プロボクサーとしてのキャリアを築いた。身長は191 cm、リーチは203 cmである。
2. アマチュアキャリア
マジドフはアマチュアボクシングで輝かしいキャリアを築き、その強力なパンチで知られた。彼は数多くの主要な国際大会で優れた成績を収め、複数の世界選手権で金メダルを獲得し、オリンピックでもメダルを手にした。

2.1. 主要アマチュア選手権
マジドフは、オリンピックやAIBA世界ボクシング選手権といった主要なアマチュアボクシング大会で顕著な成果を上げた。
2.1.1. 2011年世界ボクシング選手権
2011年、アゼルバイジャンのバクーで開催された2011年世界ボクシング選手権大会にスーパーヘビー級で出場した。サルドル・アブドゥラエフ(ウズベキスタン)を16強で、キューバの有力選手エリスランディ・サボンを準々決勝でそれぞれストップ勝ちで退けた。準決勝ではイヴァン・ディッコ(カザフスタン)に16対9で勝利。決勝ではイングランドのアンソニー・ジョシュアと対戦し、22対21の僅差で勝利を収め、金メダルを獲得した。
2.1.2. 2012年ロンドンオリンピック
2012年ロンドンオリンピックのスーパーヘビー級に出場。初戦でメジ・ムワンバを、準々決勝でヨーロッパチャンピオンであるマゴメド・オマロフ(ロシア)を17対14で破り勝ち進んだ。準決勝では前回大会の優勝者であるロベルト・カンマレーレ(イタリア)と対戦し、第1ラウンド終了時点では8対6でリードしていたものの、最終的には12対13で逆転負けを喫した。この結果、マジドフは銅メダルを獲得した。
2.1.3. 2013年・2017年世界ボクシング選手権
2013年、カザフスタンのアルマトイで開催された2013年世界ボクシング選手権大会にスーパーヘビー級で出場。第2ラウンドでレンロイ・トンプソン(アメリカ合衆国)に3対0で、準々決勝でマゴメド・オマロフ(ロシア)に3対0で勝利し、勝ち進んだ。準決勝ではロンドンオリンピックで敗れたロベルト・カンマレーレと再び対戦。第1ラウンドで強力な右ストレートによりダウンを奪い、警告を受けたものの、3対0で勝利し決勝に進出した。決勝では前回大会の準決勝で対戦したイヴァン・ディッコ(カザフスタン)と対戦し、最初の2ラウンドではディッコが優勢だったが、第3ラウンド開始直後に連続してダウンを奪い、ノックアウトで勝利。2大会連続となる金メダルを獲得した。
2017年、ドイツのハンブルクで開催された2017年世界ボクシング選手権大会に、2大会ぶりに出場した。初戦でサティシュ・クマール(インド)に5対0で、第2戦でフセイン・イシャイシュ(ヨルダン)に5対0で勝利した。準々決勝ではジャミリ=ディニ・アブドゥ(フランス)に3対2で辛勝し、準決勝ではジョセフ・グッドオール(オーストラリア)に勝利した。決勝では再びカザフスタンのカムシベク・クンカバエフと対戦し、4対1で勝利。これにより、スーパーヘビー級で3度目の世界チャンピオンに輝いた。
2.1.4. その他の主要大会
マジドフは上記の主要大会以外にも、複数の国際大会でメダルを獲得している。
3. プロキャリア
アマチュアボクシングでの成功を収めた後、マゴメドラサル・マジドフはプロボクシングの世界へと転向した。
3.1. プロデビュー
2019年8月、エディー・ハーン率いるマッチルーム・ボクシングとプロモーション契約を結び、アゼルバイジャン人ボクサーとしては初のマッチルーム・ボクシング所属選手となった。同年9月13日、アメリカ合衆国ニューヨーク市のマディソン・スクエア・ガーデン・シアターで、エド・フォウンテインを相手にプロデビュー戦を行った。この試合はイギリスではスカイ・スポーツ、アメリカ合衆国ではDAZNで生中継され、4回2分41秒テクニカルノックアウト(TKO)で勝利を収めた。
3.2. 主要なプロの試合
プロデビュー後、マジドフはさらに2つの勝利を重ねたが、その後キャリア初の敗北を喫した。
- 2019年12月7日には、サウジアラビアのディルイーヤ・アリーナでトム・リトル(イギリス)と対戦。この試合はアンディ・ルイス・ジュニア 対 アンソニー・ジョシュア第2戦のアンダーカードとして行われ、マジドフが2回1分49秒TKOで勝利した。
- 2020年11月27日、アメリカ合衆国フロリダ州ハリウッドのセミノール・ハード・ロック・ホテル・アンド・カジノ内ハード・ロック・ライブにて、サフレト・デルガド(プエルトリコ)と対戦。3回40秒TKO勝ちを収めた。
- 2021年4月17日、同じくハード・ロック・ライブで開催されたデメトリアス・アンドラーデ対リアム・ウィリアムスのアンダーカードで、アンドレイ・フェドソフ(ロシア)と対戦。この試合でマジドフはプロキャリア初の敗北を喫した。試合中、最初のダウンの際に右足首に全体重がかかり捻挫する怪我を負った。痛みを堪えながら試合を続行したが、2度目のダウンで右足首の負傷が悪化し、1回1分24秒ノックアウト負けとなった。マジドフは担架でリングから運び出された。
4. 獲得タイトルと実績
マゴメドラサル・マジドフは、アマチュアおよびプロボクシングキャリアを通じて以下の主要なタイトルと実績を獲得した。
- アマチュアボクシング戦績: 70戦56勝14敗
- AIBA世界ボクシング選手権 スーパーヘビー級
- 2011年 バクー大会: 金メダル
- 2013年 アルマトイ大会: 金メダル
- 2017年 ハンブルク大会: 金メダル
- オリンピック スーパーヘビー級
- 2012年 ロンドンオリンピック: 銅メダル
- ヨーロッパアマチュアボクシング選手権 スーパーヘビー級
- 2013年 ミンスク大会: 金メダル
- ヨーロッパ競技大会 スーパーヘビー級
- 2015年 バクー大会: 銅メダル
- イスラム諸国競技大会
- 2017年 バクー大会: 金メダル
5. プロボクシング戦績
マジドフのプロボクシング戦績は以下の通りである。
No. | 結果 | 通算成績 | 対戦相手 | 勝敗の種類 | ラウンド、時間 | 開催日 | 場所 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
4 | 敗北 | 3勝1敗 | アンドレイ・フェドソフ(ロシア) | KO | 1R 1:24 | 2021年4月17日 | アメリカ合衆国フロリダ州ハリウッド、セミノール・ハード・ロック・ホテル・アンド・カジノ | |
3 | 勝利 | 3勝0敗 | サフレト・デルガド(プエルトリコ) | TKO | 3R 0:40 | 2020年11月27日 | アメリカ合衆国フロリダ州ハリウッド、セミノール・ハード・ロック・ホテル・アンド・カジノ | |
2 | 勝利 | 2勝0敗 | トム・リトル(イギリス) | TKO | 2R 1:49 | 2019年12月7日 | サウジアラビアディルイーヤ、ディルイーヤ・アリーナ | |
1 | 勝利 | 1勝0敗 | エド・フォウンテイン(アメリカ合衆国) | TKO | 4R 2:41 | 2019年9月13日 | アメリカ合衆国ニューヨーク市、マディソン・スクエア・ガーデン・シアター | プロデビュー戦 |