1. 概要

カカウ(Cacau)こと、クラウデミール・ジェロニモ・バレット(Claudemir Jerônimo Barretoクラウデミール・ジェロニモ・バレットポルトガル語)は、ブラジルのサント・アンドレ出身で、ドイツの元プロサッカー選手。現役時代のポジションはフォワード(ストライカー)。
ブラジルで生まれ育ったが、ブラジル代表に招集されることはなく、2009年2月にドイツ国籍を取得してドイツ代表として活動した。同年5月にデビューを果たし、2010年には2010 FIFAワールドカップに出場してチームの3位入賞に貢献した。
クラブキャリアでは、ドイツのテュルク・ギュジュ・ミュンヘンと1. FCニュルンベルクを経て、2003年から2014年までVfBシュトゥットガルトに在籍し、ブンデスリーガ優勝(2006-07シーズン)などの主要な成功を収めた。その後、日本のJリーグクラブであるセレッソ大阪で短期間プレーし、キャリア終盤には古巣シュトゥットガルトのセカンドチームでプレーした後、2016年に現役を引退した。
引退後はVfBシュトゥットガルトの広報大使を務めるなど、公的な活動にも従事している。また、ドイツサッカー界における黒人選手の経験を扱ったドキュメンタリー映画「黒い鷲」に出演するなど、社会貢献活動にも関わっている。
2. 幼少期とユース時代
2.1. 出生と初期の成長
カカウことクラウデミール・ジェロニモ・バレットは、1981年3月27日にブラジルのサンパウロ州サント・アンドレで生まれた。彼の兄弟であるヴラデミールもプロサッカー選手として活動している。カカウは熱心なクリスチャンであり、その信仰が彼の人生の大きな部分を占めていると語っている。
2.2. ユースアカデミーとドイツ初期のクラブ
カカウは、1994年から1997年までブラジルの名門SEパルメイラスのユースアカデミーに在籍し、その後1997年から1999年までナシオナル-SPのユースに所属した。
1999年にドイツへ移住し、同年から2001年までドイツ5部相当のリーグに所属するSVテュルク・ギュジュ・ミュンヘンでキャリアを再開した。テュルク・ギュジュでの活躍が認められ、2001年に1. FCニュルンベルクのリザーブチームに移籍した。
3. クラブキャリア
3.1. 1. FCニュルンベルク
2001年、1. FCニュルンベルクのリザーブチームでの好成績が評価され、トップチームに昇格したカカウは、同年11月18日のハンザ・ロストック戦でブンデスリーガデビューを果たした。わずか2試合目のブンデスリーガ出場となった12月8日のバイヤー・レバークーゼン戦では、チームは2-4で敗れたものの、自身初のブンデスリーガでの得点となる2ゴールを記録した。2001-02シーズンは、17試合に出場し6ゴールを挙げる好調なスタートを切った。しかし、続く2002-03シーズンでは27試合出場で2ゴールに留まり、チームは2. ブンデスリーガへ降格した。
3.2. VfBシュトゥットガルト

カカウは2003年1月にVfBシュトゥットガルトとの契約に合意し、2003-04シーズンに同クラブへ移籍した。シュトゥットガルトでの最初のシーズンでは、UEFAチャンピオンズリーグに4試合出場した。2004-05シーズンにはブンデスリーガで12ゴールを挙げ、チーム内2位の得点数を記録した。また、同シーズン前半のUEFAカップでは、大会最初の3試合で3連続の2ゴールを記録するなど、目覚ましい活躍を見せた。
2005-06シーズンはブンデスリーガで4ゴールに留まり不調に終わったが、2006-07シーズンにはチームをリーグ優勝に導く主要選手の一人となった。このシーズンもチーム内2位となる13ゴールを記録し、特にバイエルン・ミュンヘン戦での2-0の勝利に貢献する2ゴールや、シーズン終盤のVfLボーフム戦での3-2のアウェイ勝利での決勝ゴールなど、重要な局面で得点を挙げた。同シーズン、DFBポカールでは6試合で5ゴールを記録し、決勝に進出。古巣1. FCニュルンベルクとの決勝戦では先制ゴールを決めたが、その11分後に退場処分を受け、チームは延長戦の末2-3で敗れ、準優勝に終わった。
2007-08シーズンには、再びUEFAチャンピオンズリーグで5試合に出場し、レンジャーズ戦での同点ゴールを含む初得点を記録した。ブンデスリーガでは27試合出場で9ゴールを挙げ、チームのリーグ6位フィニッシュに貢献した。2008-09シーズンは、25試合出場で7ゴールを記録し、チームのリーグ3位躍進に貢献した。
2010年2月20日、1. FCケルンとのアウェイ戦で5-1の勝利に貢献する4ゴールを記録した。4月30日には1899ホッフェンハイム戦でシーズン最後のゴールを挙げ、このシーズンのブンデスリーガでのゴール数を8とした。これにより、5月1日にはVfBシュトゥットガルトとの契約を2013年夏まで延長した。
2011-12シーズンは好調な滑り出しを見せ、8月6日のシャルケ04戦ではヘディングでゴールを決め、3-0の勝利に貢献した。2013年3月22日には、シュトゥットガルトとの契約オプションを行使し、契約期間を2014年6月まで延長した。しかし、2014年5月3日、契約満了に伴い2013-14シーズン限りでシュトゥットガルトを退団することが発表された。
3.3. セレッソ大阪
2014年8月11日、カカウは日本のJリーグクラブであるセレッソ大阪へ移籍した。契約は2015年6月末までとされた。当時、得点力不足に悩むセレッソ大阪にとって救世主となることが期待され、年俸は推定3.40 億 JPYと報じられた。9月23日の名古屋グランパス戦でJリーグ初ゴールを記録するなど、個人としては2014シーズンにJ1リーグで12試合に出場し5ゴールを挙げた。しかし、チームはJ2リーグへ降格した。
カカウは、ドイツのサッカー専門誌『Kicker』とのインタビューで、Jリーグのフィジカルと戦術レベルはブンデスリーガから2クラス、あるいは3クラス遅れていると語っている。2015シーズンにはJ2リーグで12試合に出場し2ゴールを記録したが、2015年6月9日、契約期間を前倒ししてセレッソ大阪との契約を解除した。
3.4. 後期のキャリアと引退
セレッソ大阪退団後、しばらく無所属期間が続いたカカウは、2016年2月に古巣VfBシュトゥットガルトのセカンドチームであるシュトゥットガルトII(ドイツ3部リーグ)に加入した。これは、降格の危機に瀕していたチームを助けたいという彼の意向によるものだった。シュトゥットガルトIIでは9試合に出場し3ゴールを記録した。
同年10月11日、カカウはプロサッカー選手からの現役引退を正式に発表した。引退の理由として、興味をそそるようなオファーがなかったことを挙げている。
4. 代表キャリア
4.1. 帰化と代表デビュー
ブラジルで生まれたカカウは、ブラジル代表に招集される機会はなかった。しかし、1999年からドイツに居住し、その期間が8年を超えたことで、2009年2月にブラジルとの二重国籍という形でドイツ国籍を取得し、ドイツ代表としてプレーする資格を得た。
2009年5月19日、当時のドイツ代表監督ヨアヒム・レーヴによってドイツ代表に初招集された。同年5月29日、中国との親善試合(1-1引き分け)でマリオ・ゴメスとの交代で途中出場し、ドイツ代表としての初出場を果たした。4日後のアラブ首長国連邦(UAE)戦(7-2勝利)では、ルーカス・ポドルスキに代わって後半開始から出場し、ゴメスの3点目をアシストするなど活躍した。2010年5月13日のマルタとの親善試合(3-0勝利)では、代表初得点を含む2ゴールを挙げた。
4.2. 2010 FIFAワールドカップ
クラブでの活躍もあり、カカウは2010 FIFAワールドカップに出場するドイツ代表メンバーに選出された。グループリーグ初戦のオーストラリア戦(4-0勝利)に途中出場し、投入直後にホルガー・バトシュトゥバーのアシストからダメ押しとなる4点目を挙げた。この試合の終盤、転倒がシミュレーションと判断され、イエローカードを受けた。
2戦目のセルビア戦(0-1敗戦)では70分にメスト・エジルに代わって途中出場した。3戦目のガーナ戦(1-0勝利)では1トップとして先発フル出場を果たした。決勝トーナメントでは、1回戦のイングランド戦(4-1勝利)、準々決勝のアルゼンチン戦(4-0勝利)、準決勝のスペイン戦(0-1敗戦)では出場機会がなかった。しかし、7月10日に行われた3位決定戦のウルグアイ戦(3-2勝利)では1トップとして先発出場し、73分までプレーした。この大会でドイツ代表は3位という成績を収めた。
4.3. その後の出場とUEFA EURO 2012予選
ワールドカップ後も、カカウはUEFA EURO 2012予選においてドイツ代表のレギュラーメンバーとして活躍を続けた。予選初戦のベルギー戦(アウェイ、1-0勝利)から第4戦のカザフスタン戦(アウェイ、3-0勝利)まで、4試合連続で途中出場を果たした。しかし、予選中盤にはクラブでの不振が影響し、一時的に代表招集外となった時期もあった。
2011年8月には、母国ブラジルとの親善試合で再び招集された。本大会出場をすでに決めた後の予選最終戦であるベルギー戦(ホーム、3-1勝利)で再び途中出場したが、予選での成績は5試合出場(いずれも途中出場)で無得点に終わった。
2012年2月29日に行われたフランスとの親善試合(1-2敗戦)では、チーム唯一の得点を挙げた。この活躍により、UEFA EURO 2012本大会に向けてのドイツ代表暫定メンバー27人に選ばれたものの、5月28日に発表された最終メンバー23人からは落選した。
5. 人物
5.1. 家族と信仰
カカウの兄弟であるヴラデミールもプロサッカー選手であり、ブラジルのパラナ・クルーベなどでプレー経験がある。カカウは敬虔なクリスチャンであり、彼の信仰は人生において非常に重要な位置を占めていると公言している。
5.2. 愛称と社会貢献活動
2009年初めにドイツ国籍を取得して以来、VfBシュトゥットガルトやドイツ代表では「ヘルムート」(Helmut)という愛称で呼ばれるようになった。この愛称は、当時シュトゥットガルトのチームメイトであったスイス代表のリュドヴィク・マニャンが、「ドイツ人になったカカウは、ちゃんとしたドイツらしい名前を持つべきだ」として名付けたものである。
2021年、カカウはドイツのプロサッカー界における黒人選手の経験を詳細に描いたドキュメンタリー映画「黒い鷲」(Schwarze Adler)に出演し、ドイツ社会における人種差別問題に対する認識向上に貢献した。この活動は、彼のキャリアにおける社会貢献活動の一環として注目されている。
6. 引退後の活動
プロサッカー選手引退後の活動として、カカウは2016年10月の現役引退発表後、古巣であるVfBシュトゥットガルトの広報大使に就任し、クラブの顔として活動している。この役職を通じて、彼は自身の経験と知名度を活かし、クラブのブランド価値向上やファンとの交流、さらにはサッカー界全体の発展に寄与している。
7. 功績と栄誉
カカウが選手キャリア中にチームとしておよび個人として達成した主要な優勝、準優勝記録、および個人受賞歴を以下に示す。
VfBシュトゥットガルト
- ブンデスリーガ:1回(2006-07)
- DFBポカール準優勝:2回(2006-07、2012-13)
ドイツ代表
- FIFAワールドカップ 3位:1回(2010)
個人
- DFBポカール得点王:1回(2006-07)
8. キャリア統計
8.1. クラブ
クラブ | シーズン | リーグ | 国内カップ | リーグカップ | 大陸大会 | 通算 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
ディビジョン | 出場 | ゴール | 出場 | ゴール | 出場 | ゴール | 出場 | ゴール | 出場 | ゴール | ||
テュルク・ギュジュ・ミュンヘン | 2000-01 | ランデスリーガ(9. ブンデス相当) | 31 | 7 | - | - | - | 31 | 7 | |||
1. FCニュルンベルク | 2001-02 | ブンデスリーガ | 17 | 6 | 0 | 0 | - | - | 17 | 6 | ||
2002-03 | 27 | 2 | 2 | 0 | - | - | 29 | 2 | ||||
合計 | 44 | 8 | 2 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 46 | 8 | ||
VfBシュトゥットガルト | 2003-04 | ブンデスリーガ | 16 | 4 | 3 | 1 | 1 | 0 | 4 | 0 | 24 | 5 |
2004-05 | 32 | 12 | 3 | 2 | 2 | 2 | 8 | 7 | 45 | 23 | ||
2005-06 | 20 | 4 | 1 | 1 | 3 | 0 | 5 | 0 | 29 | 5 | ||
2006-07 | 32 | 13 | 6 | 5 | - | - | 38 | 18 | ||||
2007-08 | 27 | 9 | 1 | 0 | 1 | 0 | 5 | 1 | 34 | 10 | ||
2008-09 | 25 | 7 | 1 | 1 | - | 6 | 0 | 32 | 8 | |||
2009-10 | 25 | 13 | 2 | 2 | - | 6 | 1 | 33 | 16 | |||
2010-11 | 27 | 8 | 2 | 2 | - | 7 | 1 | 36 | 11 | |||
2011-12 | 33 | 8 | 4 | 3 | - | - | 37 | 11 | ||||
2012-13 | 5 | 1 | 2 | 0 | - | 4 | 0 | 11 | 1 | |||
2013-14 | 21 | 1 | 2 | 0 | - | 4 | 0 | 27 | 1 | |||
合計 | 263 | 80 | 27 | 17 | 7 | 2 | 49 | 10 | 346 | 109 | ||
セレッソ大阪 | 2014 | J1 | 12 | 5 | 2 | 0 | 0 | 0 | - | 14 | 5 | |
2015 | J2 | 12 | 2 | - | - | - | 12 | 2 | ||||
VfBシュトゥットガルトII | 2015-16 | 3. リーガ | 9 | 3 | - | - | - | 9 | 3 | |||
キャリア通算 | 371 | 105 | 31 | 17 | 7 | 2 | 49 | 10 | 458 | 134 |
8.2. 代表得点
ドイツ代表での得点記録を以下に示す。「スコア」欄はカカウの各ゴール後の得点経過を示し、「結果」欄はドイツの最終的な試合結果を示す。