1. 経歴と背景
ヘイダロフはカザフスタンで生まれ、幼少期にアゼルバイジャンへ移住し柔道を始めた。彼の初期の指導者やインスピレーション源となった人物がキャリア形成に大きな影響を与えた。
1.1. 幼少期と教育
ヒダヤト・ヘイダロフは1997年7月27日にカザフスタンのカラガンダで生まれた。身長は174 cmである。彼の家族はアゼルバイジャンのゴイチャイ県にルーツを持っており、ヒダヤトが3歳の時にバクーへ移住した。6歳の時、父親によってネフチラー地下鉄駅近くにあるオリンピック予備校第13専門児童青少年スポーツ学校の柔道部門に入門させられ、柔道を始めた。2014年にはアゼルバイジャン国立体育スポーツアカデミーに入学している。
1.2. 初期コーチと影響
ヒダヤト・ヘイダロフの最初のコーチはタルラン・ハサノフであり、2024年時点でも彼を指導している。柔道キャリアにおける彼のインスピレーション源としては、2008年のオリンピック柔道金メダリストであり、後にヘイダロフのコーチも務めたエルヌル・マンマドリが挙げられる。また、彼はアイルランドの総合格闘家であるコナー・マクレガーを自身のヒーローとして挙げている。
2. ジュニアキャリアと初期の成果
ヘイダロフはカデット、ジュニア、U23世代のヨーロッパ選手権や世界ジュニア選手権で数々の初期の成果を収めた。
2012年にはアゼルバイジャンユース選手権で銅メダルを獲得した。2013年には60kg級でヨーロッパユースチャンピオンとなり、またヨーロッパユースオリンピックフェスティバルでも3位に入賞した。同年には国内選手権でも優勝を果たしている。2014年には階級を66kg級に上げ、ヨーロッパカデ選手権で優勝した。
2015年にはアブダビで開催された世界ジュニア柔道選手権大会の66kg級で銅メダルを獲得した。この大会の準決勝では浅利昌哉(日本)に敗れたが、試合後に浅利との握手を拒否し、不満を表す場面があった。同年、U23ヨーロッパ選手権では73kg級で銅メダルを獲得した。
2016年にはマラガで開催されたヨーロッパジュニア柔道選手権大会の73kg級で優勝し、オレンブルクで開催されたヨーロッパカップでも優勝した。同年、テルアビブで開催されたU23ヨーロッパ選手権でも優勝を果たした。
2017年にはザグレブで開催された世界ジュニア柔道選手権大会の73kg級で優勝し、トルコのビラル・チログルを決勝で破った。
3. シニアキャリアと主要大会での成果
ヘイダロフはシニア選手として、数々の主要な国際大会で目覚ましい業績を挙げている。
3.1. ヨーロッパ選手権
ヘイダロフはヨーロッパ柔道選手権大会で4度の金メダルを獲得している。
2017年にはワルシャワで開催されたヨーロッパ選手権の73kg級で、決勝でロシアのムサ・モグシコフを破り優勝した。団体戦では3位決定戦でウクライナと対戦し、自身の勝利を含め3連勝したことでチームの勝利が決まったが、副将のママダリ・メフディエフが試合放棄したため、チーム全体が失格となり5位に終わった。
2018年にはテルアビブで開催されたヨーロッパ選手権で銀メダルを獲得し、決勝でアルメニアのフェルディナンド・カラペティアンに敗れた。
2019年にはミンスクで開催されたヨーロッパ競技大会で銅メダルを獲得した。この大会の柔道競技はヨーロッパ選手権のステータスも兼ねており、ヘイダロフはカラペティアンや2012年オリンピック金メダリストのラシャ・シャフダトゥアシビリ(ジョージア)を敗者復活戦で破った。
2022年にはソフィアで開催されたヨーロッパ選手権で優勝を果たした。
2023年にはモンペリエで開催されたヨーロッパ選手権で2連覇を達成した。また、同年プリシュティナで開催されたヨーロッパオープン選手権では銅メダルを獲得した。
2024年にはザグレブで開催されたヨーロッパ選手権で3連覇を果たし、通算4度目の優勝を飾った。
3.2. 世界選手権
ヘイダロフは世界柔道選手権大会で金メダル1個、銅メダル3個を獲得している。
2017年、ブダペストで開催された自身初の世界選手権では、準決勝で日本の橋本壮市に敗れ、さらに銅メダル決定戦でもモンゴルのオドバヤル・ガントバータルに敗れて5位に終わった。
2018年、地元バクーで開催された世界選手権では、準決勝で再び橋本に敗れたものの、銅メダルを獲得した。
2019年、東京で開催された世界選手権では、準決勝で同僚のルスタム・オルジョフに敗れたが、3位決定戦でタジキスタンのベフルジ・ホジャゾダを破り、銅メダルを獲得した。
2021年の世界選手権では、再び橋本に敗れて5位に終わった。
2022年にはタシュケントで開催された世界選手権で銅メダルを獲得した。
2023年の世界選手権では5位に終わった。
2024年、アブダビで開催された世界選手権では、決勝で日本の石原樹と対戦し、技ありを先取されながらも試合終了間際に肩車で逆転勝ちを収め、自身初となる世界選手権の金メダルを獲得した。
3.3. オリンピック
ヘイダロフはオリンピックで金メダル1個を獲得している。
2020年東京オリンピックには、同じ階級にルスタム・オルジョフがいたため出場できなかった。
2024年パリオリンピックでは、決勝で地元フランスのジョアン=バンジャマン・ガバと対戦。9分近くに及ぶ激戦の末に小外刈で破り、金メダルを獲得した。この勝利により、彼は同一年に世界選手権とオリンピックを制覇した史上初の男子柔道選手となった。
3.4. その他の国際大会
ヘイダロフはグランドスラム、グランプリ、ワールドマスターズなど、その他の主要な国際大会でも多くのメダルを獲得している。
- グランドスラム
- 2017年パリ大会で銅メダルを獲得。
- 2019年バクー大会で優勝。
- 2021年パリ大会で銅メダル、同年バクー大会でも銅メダルを獲得。
- 2022年テルアビブ大会で優勝、同年ブダペスト大会でも優勝、同年バクー大会でも優勝。
- 2023年アンタルヤ大会で銅メダルを獲得。
- 2023年バクー大会で優勝。
- 2023年東京大会では決勝で橋本壮市を破り優勝。これは橋本との8度目の対戦で初の勝利となった。
- 2024年バクー大会で2連覇を達成。
- グランプリ
- 2017年アンタルヤ大会で銅メダル、2018年アンタルヤ大会でも銅メダルを獲得。
- 2019年フフホト大会で優勝。
- 2021年ザグレブ大会で優勝。
- ワールドマスターズ
- 2017年サンクトペテルブルク大会で銅メダルを獲得。これは彼にとって初のワールドマスターズでのメダルであり、数ヶ月前の世界選手権で敗れたオドバヤル・ガントバータルを破っての獲得だった。
- イスラム諸国連帯競技大会
- 2017年バクー大会で優勝。
- 夏季ユニバーシアード
- 2019年ナポリ大会で銀メダルを獲得し、男子団体戦でも銅メダルを獲得した。
- ミリタリーワールドゲームズ
- 2019年大会では一時的に階級を81kg級に上げて出場し、銅メダルを獲得した。
- ヨーロッパオープン
- 2017年ミンスク大会で優勝。
- グランドスラム・アブダビ
- 2019年大会では81kg級で7位。
4. 柔道スタイルと得意技
ヘイダロフの柔道スタイルは、その独特な技と試合運びによって特徴づけられる。
彼の得意技は「高速ステルスタックル」と呼ばれる変形の肩車である。これは、相手にタックルを仕掛け、相手の脇に頭を入れながら腕を持ち、相手を倒しつつ素早く回転して投げるというものである。
5. 評価と影響
ヘイダロフは、その卓越した成績と歴史的な偉業により、柔道界で高い評価を受けている。
2017年にはヨーロッパ柔道連盟によって「ヨーロッパ最優秀若手柔道家」に選出された。2024年には、世界選手権とオリンピックを同一年に制覇した史上初の男子柔道選手となり、柔道史にその名を刻んだ。
IJFの世界ランキングでは、2024年8月11日現在、6000ポイントを獲得し1位に位置している。
