1. 概要
ムジンガ・カンブンジ(Mujinga Kambundjiムジンガ・カンブンジドイツ語、1992年6月17日生まれ)は、スイスの陸上短距離選手であり、スイス陸上界を代表する存在です。彼女は特に、世界室内陸上競技選手権大会で60mの金メダルを獲得するなど、数々の国際的な功績を達成しています。そのキャリアを通じて、短距離走の分野でスイス記録を樹立し、数多くの国内タイトルを獲得しました。カンブンジは、その揺るぎない努力と一貫したパフォーマンスにより、スイスのスポーツ界において特別な存在として認識されており、国民的アスリートとして多くの人々に影響を与えています。
2. 初期生い立ちと家族
ムジンガ・カンブンジは、幼少期から陸上競技に才能を示し、そのキャリアは家族の深い絆と支援によって育まれました。
2.1. 出生と家族構成
ムジンガ・カンブンジは1992年6月17日にスイスのベルンで生まれました。父親はコンゴ人のサフカ、母親はベルン出身のルースです。彼女は4人兄弟の2番目の子供であり、その家族は陸上競技との深いつながりを持っています。姉のカルアンダが最初に陸上プログラムに参加し、その後ムジンガ、ムスワマ、そして末妹のディタジ・カンブンジと続きました。妹のディタジも国際的なアスリートであり、2020年東京オリンピックではスイス代表として活躍しています。
2.2. 教育と初期の訓練
カンブンジは、STベルン陸上競技クラブで初期のトレーニングを受け、ジャック・コーディーの指導を受けました。2013年の秋には、元ヨーロッパチャンピオンのヴェレナ・ザイラーと共に、トレーナーのヴァレリー・バウアーの指導を受けるためマンハイムへと拠点を移しました。この初期の訓練は、彼女のその後の輝かしいキャリアの基礎を築く上で重要な段階となりました。
3. 選手キャリア
ムジンガ・カンブンジの選手キャリアは、国際舞台での華々しい功績と継続的な成長によって特徴付けられます。
3.1. 初期キャリア (2009年-2010年)
2009年、カンブンジはヨーロッパユースオリンピックフェスティバルで100mの銀メダル、4x100mリレーで金メダルを獲得しました。さらに、スイス国内選手権では100mと200mで金メダルを獲得し、この功績が評価され、スイス陸上競技連盟によってスイス年間最優秀アスリートに選出されました。
2010年には、ヨーロッパチーム選手権第2リーグの200mで優勝し、U20世界選手権ではこの種目でスイスU20記録を樹立しました。
3.2. 成長と国内外での活躍 (2013年-2017年)
この時期、カンブンジは選手として著しい成長を遂げ、国内外の大会で活躍しました。2013年秋には、コーチのヴァレリー・バウアーの指導を受けるため、マンハイムへ拠点を移しました。
2014年ヨーロッパ選手権(チューリッヒ)では、100mの予選と準決勝で自身の国内記録を更新し、決勝では4位に入賞しました。続いて200m決勝では5位に入賞し、レグラ・アエビが26年間保持していた国内記録を破りました。
2016年ヨーロッパ選手権(アムステルダム)では、100mで銅メダルを獲得しました。同年、2016年リオデジャネイロオリンピックのスイス代表に選出され、100mと200mの両種目で準決勝に進出しました。
2017年ヨーロッパ室内選手権(ベオグラード)では、60mで銅メダルを獲得しました。同年、2017年世界選手権(ロンドン)では、100mで10位に入賞しました。また、アイラ・デル・ポンテ、サラ・アッチョ、サロメ・コラと共に4x100mリレーに出場し、準決勝で国内記録を更新し、決勝では5位に入賞しました。
3.3. 世界舞台での飛躍 (2018年-2022年)
2018年以降、カンブンジは世界舞台で目覚ましい躍進を遂げました。
2018年世界室内選手権(バーミンガム)では、60m決勝で3位に入り銅メダルを獲得しました。同年、2018年ヨーロッパ選手権(ベルリン)では、100m、200m、そして4x100mリレー(アイラ・デル・ポンテ、サラ・アッチョ、サロメ・コラと共に)でいずれも4位に入賞しました。


2019年世界選手権(ドーハ)では、200mで銅メダルを獲得し、4x100mリレーでは国内記録を更新し4位に入賞しました。この年、彼女はスイス年間最優秀スポーツパーソン賞に選出されました。
2020年東京オリンピック(2021年開催)では、100mと200mの両種目で決勝に進出し、それぞれ6位と7位に入賞しました。また、スイスの4x100mリレーチームの一員として決勝で4位に入賞しました。
2022年世界室内選手権(ベオグラード)では、6.96秒の記録で60mの金メダルを獲得しました。この記録は、世界歴代4位タイに位置し、1999年以降この距離でこれほど速いタイムを出した女子選手はいませんでした。同年12月には、再びスイス年間最優秀スポーツパーソン賞を受賞しました。
2022年8月19日、ヨーロッパ選手権(ミュンヘン)において、22.32秒の記録で200mの金メダルを獲得しました。3日前の100mでは10.99秒で銀メダルを獲得しており、ドイツのジーナ・リュッケンケムパーに次ぐ成績でした。


3.4. 最近の活動 (2023年以降)
2023年には、ヨーロッパ室内選手権(イスタンブール)の60mで7.00秒を記録し、大会記録を樹立して金メダルを獲得しました。2023年世界選手権(ブダペスト)の100mでは、今季自己最高記録となる11.04秒で準決勝13位でした。
2024年ヨーロッパ選手権(ローマ)では、100mで8位(11.15秒)に入賞し、200mでは22.49秒で金メダルを獲得しました。
2024年パリオリンピックでは、100mで6位(10.99秒)、200mで準決勝11位(22.63秒)に入賞しました。また、4x100mリレーでは予選6位(42.36秒)で決勝に進出しましたが、決勝では完走できませんでした。
3.5. 訓練とコーチの変遷
カンブンジは、キャリアを通じて複数のコーチの下でトレーニングを積んできました。当初はSTベルン陸上競技クラブでジャック・コーディーの指導を受けました。2013年秋にはマンハイムへ移り、ヴァレリー・バウアーの指導を受けました。
2017年末にはオランダ人コーチのヘンク・クラーイェンホフと契約しましたが、その協力関係はわずか2ヶ月で終了しました。その後、アドリアン・ローテンビューラーが彼女のコーチとなり、5年間指導しました。2022年11月からは、元短距離選手でもある彼女のパートナー、フローリアン・クリヴァスがローテンビューラーに代わってカンブンジのコーチを務めています。
4. 主要記録と受賞
ムジンガ・カンブンジは、その優れた才能と努力により、多くの陸上競技記録を樹立し、数々の栄誉を獲得してきました。
4.1. 自己最高記録
カンブンジが達成した主要な自己最高記録は以下の通りです。これらは多くがスイス記録となっています。
4.2. 国際大会メダルおよび主要成績
彼女が主要な国際大会で獲得したメダルおよび重要な成績は以下の通りです。
| 年 | 大会名 | 開催地 | 順位 | 種目 | 記録 |
|---|---|---|---|---|---|
| 2009 | 世界ユース選手権 | ブレッサノーネ、イタリア | 6位 | 200m | 23.92 |
| ヨーロッパユースオリンピックフェスティバル | タンペレ、フィンランド | 銀 | 100m | 11.84 | |
| 金 | 4x100mリレー | 46.30 | |||
| 2010 | ヨーロッパチーム選手権 | ベオグラード、セルビア | 金 | 200m | 24.20 |
| 銀 | 4x100mリレー | 45.46 | |||
| 2011 | ヨーロッパチーム選手権 | イズミル、トルコ | 銅 | 4x100mリレー | 44.24 |
| ヨーロッパジュニア選手権 | タリン、エストニア | 5位 | 100m | 11.53 | |
| 5位 | 200m | 23.70 | |||
| 2013 | ヨーロッパU23選手権 | タンペレ、フィンランド | 4位 | 100m | 11.55 (今季自己最高記録) |
| 5位 | 200m | 23.70 (今季自己最高記録) | |||
| 2014 | ヨーロッパ選手権 | チューリッヒ、スイス | 4位 | 100m | 11.30 |
| 5位 | 200m | 22.83 (スイス記録) | |||
| 4位 (予選) | 4x100mリレー | 42.98 | |||
| 2015 | ヨーロッパ室内選手権 | プラハ、チェコ | 5位 | 60m | 7.11 (スイス記録) |
| 2016 | ヨーロッパ選手権 | アムステルダム、オランダ | 銅 | 100m | 11.25 |
| 2017 | ヨーロッパ室内選手権 | ベオグラード、セルビア | 銅 | 60m | 7.16 (今季自己最高記録) |
| ヨーロッパチーム選手権第1リーグ | ヴァーサ、フィンランド | 金 | 100m | 11.45 | |
| 金 | 4x100mリレー | 43.77 | |||
| 世界選手権 | ロンドン、イギリス | 5位 | 4x100mリレー | 42.51 | |
| 2018 | 世界室内選手権 | バーミンガム、イギリス | 銅 | 60m | 7.05 |
| ヨーロッパ選手権 | ベルリン、ドイツ | 4位 | 100m | 11.05 | |
| 4位 | 200m | 22.45 (今季自己最高記録) | |||
| 4位 | 4x100mリレー | 42.30 | |||
| 2019 | ヨーロッパ室内選手権 | グラスゴー、イギリス | 5位 | 60m | 7.16 |
| ヨーロッパチーム選手権スーパーリーグ | ブィドゴシュチュ、ポーランド | 金 | 200m | 22.72 (今季自己最高記録) | |
| 銀 | 4x100mリレー | 43.11 | |||
| 世界選手権 | ドーハ、カタール | 銅 | 200m | 22.51 | |
| 4位 | 4x100mリレー | 42.18 (スイス記録) | |||
| 2021 | オリンピック | 東京、日本 | 6位 | 100m | 10.99 |
| 7位 | 200m | 22.30 | |||
| 4位 | 4x100mリレー | 42.08 | |||
| 2022 | 世界室内選手権 | ベオグラード、セルビア | 金 | 60m | 6.96 (今季世界最高記録) |
| 世界選手権 | ユージーン、アメリカ合衆国 | 5位 | 100m | 10.91 | |
| 8位 | 200m | 22.55 | |||
| 7位 | 4x100mリレー | 42.81 | |||
| ヨーロッパ選手権 | ミュンヘン、ドイツ | 銀 | 100m | 10.99 | |
| 金 | 200m | 22.32 | |||
| 2023 | ヨーロッパ室内選手権 | イスタンブール、トルコ | 金 | 60m | 7.00 (大会記録) |
| 世界選手権 | ブダペスト、ハンガリー | 13位 (準決勝) | 11.04 (今季自己最高記録) | 100m | |
| 2024 | ヨーロッパ選手権 | ローマ、イタリア | 8位 | 100m | 11.15 |
| 金 | 200m | 22.49 | |||
| オリンピック | パリ、フランス | 6位 | 100m | 10.99 | |
| 11位 (準決勝) | 200m | 22.63 | |||
| 6位 (予選) | 4x100mリレー | 42.36 |
4.3. 国内大会およびダイヤモンドリーグでの優勝記録
カンブンジは、スイス国内選手権で合計28のタイトルを獲得しており、その内訳はスイス陸上競技選手権大会で19回、スイス室内陸上競技選手権大会で9回です。
また、国際的な主要大会であるダイヤモンドリーグやワールドアスレティックス・コンチネンタルツアー、ワールドアスレティックス・インドアツアーでも優勝を重ねています。
- ダイヤモンドリーグ**
- 2013年: ローザンヌ・アトレティッシマ(4x100mリレー)
- 2015年: ローザンヌ・アトレティッシマ(4x100mリレー)
- 2017年: ローザンヌ・アトレティッシマ(4x100mリレー)
- 2018年: ローザンヌ・アトレティッシマ(4x100mリレー)
- 2021年: ユージーン・プレフォンテインクラシック(200m)
- 2022年: ストックホルム・バウハウス・ギャラン(大会記録)、ローザンヌ・アトレティッシマ(4x100mリレー)
- ワールドアスレティックス・コンチネンタルツアー**
- 2021年: ベリンツォーナ・ガラ・デイ・カステッリ(200m)
- ワールドアスレティックス・インドアツアー**
- 2023年: トルン・コペルニクス・カップ(60m)
4.4. 受賞および栄誉
カンブンジは、その優れたパフォーマンスが評価され、数々の個人賞と栄誉を受けています。
- 2019年**
- スイス年間最優秀スポーツパーソン賞
- 2022年**
- スイス年間最優秀スポーツパーソン賞
- 2020年東京オリンピック**
- スイス選手団の旗手(マックス・ハインツァーと共に)
5. 影響とその他
ムジンガ・カンブンジは、その競技成績だけでなく、彼女にちなんで名付けられたプロジェクトを通じて、陸上競技界以外にも影響を与えています。
ETHチューリッヒの学生団体Swissloopが、2018年のハイパーループ競技会に出場させた輸送カプセルは、カンブンジにちなんで「ムジンガ」と名付けられました。これは、彼女が持つスピードと革新的なイメージが評価された結果と言えるでしょう。